今日も今日とて、私の千尋ちゃんは美しい。



超高校級のプログラマーの彼は、その少女の様な容貌からコアなファンが多い。そして彼らは千尋ちゃんを表す詞(ことば)に、可愛い、という形容詞を必ず使う。

でも、違う。可愛いなんて使い古された詞で千尋ちゃんを語るなんて、私には出来ない。
大きくて潤んだ瞳も、きめ細やかな肌も、華奢な体躯も、柔らかい髪も、か細い息も。千尋ちゃんを構成する何もかもが美しくて、私の情欲を掻き立てていく。千尋ちゃんは可愛いとはちがう、とても優しくて、外見もそうだけれど、心も千尋ちゃんの外見を裏切らない、汚れのない、清らかで美しくて……彼のことを邪な目で見ている私なんかじゃ到底身につけることの出来ない儚さも兼ね備えている。まさに熾天使と言っても過言ではない。
嗚呼、詞にすると何だか千尋ちゃんのことが安っぽく聞こえる。違う、違うのよ、千尋ちゃん。こんなありきたりな詞で千尋ちゃんの美しさが語れるわけがない。どうして、千尋ちゃんのことをそのまま表すような詞が浮かんでこないのだろう。自分の語彙力の低さに嫌気が指す。それとも千尋ちゃんの美しさはこの世にある詞では表現なんて出来ないのかしら。きっとそう。
だって、初めて出会った中学生の時、私はあまりにも美しい千尋ちゃんを見て、思わず腰を抜かしてその場に座り込んでしまって、千尋ちゃんを吃驚させてしまった。嗚呼、あの時の顔も美しくてたまらなかったけれど、腰を抜かすだけでよく耐えていたと思うの。だって、あと少しでも力が抜けていたら、私そのまま失禁していたと思うもの。

それ位、私にとって千尋ちゃんは特別。私は千尋ちゃんのもので、出来れば千尋ちゃんも私のものでいてほしい。でもそこまで烏滸がましいことは言わない。だって千尋ちゃんに嫌われたくないから。

「千尋ちゃん、おはよう。」

「あっ、なまえちゃん、おはよぉ。」



だから私は朝一番に千尋ちゃんに話しかけて、ずっと一緒にいる。出席番号の関係で中学の頃からずっと席は千尋ちゃんの後ろ。一緒にいても不自然にならない。少人数の本科の教室だから席替えもない。授業はずっと千尋ちゃんの背中や柔らかい髪、ちょこんとした旋毛を見ていたらすぐに終わる。たまに揺れる後ろ姿に子宮が疼く。時々振り向いてくれる千尋ちゃんが余りにも愛しくて心臓を掻き毟られる様なむず痒さを感じて、膣が濡れてしまう。悟られないようにするのに私は精一杯。

「ぼく、文系やっぱり少し苦手だなぁ……」

「大丈夫よ、千尋ちゃんは頭の回転が早いから直ぐに理解出来るわ」

「うーん、そうかなぁ?」

嗚呼、こんな他愛の無い会話だって、私にとってはとっても特別。いつもより少し近い、鼻先が当たってしまうくらいの距離。千尋ちゃんの吐息が、少し顔に感じてしまって、それだけで絶頂してしまいそう。

思わず千尋ちゃんの髪の毛をふわりと撫でてしまう。でもそんな私の行動さえ、千尋ちゃんはにこりと笑って

「なまえちゃん?ぼくの頭に何かついてた?」

そんなことを言うものだから。

「ううん、何でもないわ。千尋ちゃんが大切だから、触れたくなったの。」

思わず本音を言ってしまった。嗚呼、咄嗟に腐川さんが書く純愛小説の様な詞を出したけれど、そこから私が千尋ちゃんと性的な関係にまでなってしまってもいいと、むしろ性的な関係になってしまいたいと思っていると気づかれたら。千尋ちゃんに失望されてしまうかしら。そうしたら私死んじゃうかもしれない。千尋ちゃんに嫌われるなんて、この世の終わりだわ。


「ずっ、ずるいよぉ。ぼくだって男だから、なまえちゃんにそんな事言われたらドキドキしちゃうよぉ……。」

「えっ、それって」

「ぼくもなまえちゃんが女の子として、とっても大切だよ。ぼくは、なまえちゃんが大好きなんだよ。」

嗚呼、中学の時以来だわ。また腰が抜けちゃう。今度こそ失禁しちゃいそう。千尋ちゃんに、す、好きなんて言われて、どうしよう。

お願いよ千尋ちゃん。私の心をこれ以上ぐちゃぐちゃに溶かさないで頂戴。私の心はとっくにあなたのものだから。あなたが汚れてしまうわ。そしてどうか、私の汚い情欲に気づかずに千尋ちゃんの清廉な存在で包み込んで離さないでね。





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