バジルとレモンのシャーベット


40度のお湯に浸かりながら溜まっていた疲れを吐き出すように息を吐く。

普段はこんなにゆっくりお風呂に浸かることなんてほとんどない。逆上せやすい体質なのだろうか、シャワーで髪や全身を洗うだけですぐに疲れてしまって、それが当たり前になっていた。
セックスをするときはだいたいその場に風呂場なんてないことがほとんどで。もしあってもセックスする前なんて相手が待ちきれないからという理由で部屋に着いた途端に脱がされることがいつもで、私に体力がないから、相手に気絶させられるまで、それこそ「抱き潰される」という表現がぴったりなほどに体を重ねるから、お風呂なんて自分の意識があるときに入っているほうが稀だ。まあ、目が覚めた時には身体が綺麗になっていることがほとんどだから、きっと意識がなくなったときに処理をしてくれているのだろうけど。

「体力つけないとなあ。」

つぶやいた言葉が浴室の中に反響してから、溶けるように鼓膜の中へ消えていく。
セックスで体力がつくなんて、とんだ嘘だ。そんな簡単なことで体力がつくなら私は今頃大神さんと同じくらい強くなれているはずだ。今度朝日奈さんに簡単な運動教えてもらおう。
嗚呼、いけない。これから桑田くんとするのに、逆上せて出来なくなってしまう。急に立ち上がると危険だからゆっくりとお湯が身体から滑り落ちていくのを感じながら立ち上がり、浴槽から足を出す。浴室を出て脱衣所で体の水滴をバスタオルで拭いてから、桑田くんのタンスから引っ張り出した大き目の長袖のTシャツを着て、ハーフパンツを履く。男女の体系の違いというのもあってか、結構緩めだけど、特に問題はないだろう。
髪の水分をタオルに吸収させながら脱衣所を出て桑田くんに話しかける。


「怜恩くん、お風呂ありがとう。」

「あ!?べ、べつにOKだし!!」

「怜恩くんも入ってくれば?ドラマ、見終わったでしょう?」

「お、おう。」

「はあ……喉乾いちゃった。冷蔵庫のお茶もらっていい?」

「い、いいけど。」

「じゃあ、貰うね?ありがとう。」

グラスに入れた麦茶で喉を潤して、立ち上がったのに一向に脱衣所に向かおうとしない桑田くんに目を向ける。桑田くんの目線は私と床の間を行ったり来たりだ。そこで桑田くんの目に映っている情欲の色に気づいてしまった。仕方ない。お風呂から出たらと思ったけど、少しだけつまみ食いしてあげよう。

「……?怜恩くんもひょっとして喉乾いたの?」


私の飲みかけだけど、よかったら飲む?


問いかけると、桑田くんに顔を真っ赤にして、焦ったように否定する。

「あ!?べ、別に要らねえし!い、言っとくけど間接キスに照れてるわけじゃねえからな!!」

それ言ってるのと変わらないんじゃないかな。口には出さずに、笑いながら言葉を返す。

「ふふ、わかってるよ。」

そう言いながら、脱衣所にようやっと向かおうとする桑田くんに近づいて、残りの麦茶を口に含む。桑田くんを振り返らせて、少し乱暴ではあるけど、胸倉をつかんで引き寄せて、桑田くんの少しカサついた唇に自分のそれを重ねる。少し開いていた桑田くんの唇に、今まで自分が含んでいた麦茶を流し込んでいく。

間接キスに照れてるんじゃなくて、直接的なキスが欲しいんだもんね、キミは。

「んぅう……っっ!?ふ、ぅ……んんっ!」

桑田くんは目を見開きながらも体は硬直したままで、それをいいことに麦茶を桑田くんの口内に押し込むように舌を動かす。ザラリとなぞられた口内にようやく状況を理解したのか、桑田くんは必死に麦茶を飲みこんでいく。口の端から零れ落ちてきた水分にすらゾクゾクするのか、かすかに体を震わせていた。

「んぁ……はあ……っっ知歳……っ」


「この間のおさらい。覚えてる?怜恩くん、舌出して」


「んはぁ……あんぅ……っ!」


時々歯をぶつけながらも、桑田くんの口内からあふれ出してくる唾液を互いにに絡ませながら、桑田くんの舌を蹂躙していく。鼓膜の奥に直接響くような水音と、互いの鼻から漏れる息遣いと嬌声が、媚薬のように私の背中を駆け巡る。

「んちゅっ……はあっ……知歳っっ、もっとぉ……」


「んふふ、これから先は、後でのお楽しみ。」


お風呂、行ってらっしゃい。怜恩くん。


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