夏鯵のカルパッチョ


いやあ、あれはちょっとやりすぎたかな。童貞の桑田くんには刺激が強かったかもしれない。私的には全然楽しめたからむしろもっとやりたかったんだけど。

そう思って、しばらく桑田くんのことを放置してたら、面白いくらい動揺して、放課後に「お、オレにあんなことやっといて一言もナシかよおまえ!!」と半泣きで迫られた。びっくりして思わずその場で笑ってしまって、それにより余計に桑田くんが泣きそう、というかちょっと怒ったような感じになって(ぶっちゃけ泣くか怒るかどっちかにしてほしい)、ちょっとした修羅場のようになってしまった。



そんなわけで桑田くんの機嫌を直してもらおうと、桑田くんの部屋に来ている。


野球以外の才能がちょっぴり残念な桑田くんを私が助けてあげよう、という考え。本科の生徒がいくら専門分野以外の才能を伸ばさなくてもいいと義務付けられていたとしても、その才能がいつまでも自分の中に残っているわけじゃあない。桑田くんは良くも悪くも現代の若者の代表と言ったような人間で。溢れる才能に溺れているわけではないけど、その分才能から抜け出してしまうこともあるかもしれないわけで。だから、野球選手としての才能があるうちにそれなりの座学成績を収めておけば桑田くんも困ることはない。
そんなおべんちゃらを口先に乗せて桑田くんを誑かし、桑田くんも渋々納得して、勉強会が決定した。


桑田くんの部屋は想像通りというか、少しごちゃっとしていて、私がそんなに詳しくないロックミュージシャンとか、メタル系のバンドのポスターやCDが飾られていて、でも部屋の隅にある使い込まれたグローブやバットが、彼の野球の真剣さを物語っていた。

しばらくは桑田くんの勉強をみてあげて、現代文の問題を解くコツや、おすすめの参考書をぱらぱらと捲りながら彼にとっての難問を、正解へと導いていく。

私が桑田くんのノートを見るために体を寄せると、私から香るシャンプーの匂いにでも反応したのだろうか、少しだけ体をぴくっとさせて、返ってくる声も少し裏返るのが、いかにも純情なオトコノコで。


「ん?どうかしたの、桑田くん?」


「あ……、いや、別に。」


でもそんな桑田くんの希望を裏切るかのように頑なに名字で彼を呼ぶ私は、彼にはどんな風に見えているのだろうか。

「そう?じゃあ、桑田くん、この問題解いてみて。文章から抜き出しだから、比較的解きやすいよ。」


「ん……。」



別に意地悪をしているつもりはない。私だってえっちなことするならしたいけれど、それだけじゃあつまらない。今までの玩具くんたちはみんな会えばセックスだけで、終わってしまえばさようならだった。一番後腐れない関係で楽。だけど物足りない。
少し、こういう高校生らしいこと、してみたってバチなんて当たらないでしょう?



あれ、どうして桑田くん相手にこんなこと思うんだろう。




「あああーーー!!つっかれたあああ!!」

「ふふふ、お疲れさま。」


気づけば時間は21時前だった。

彼にしては良く頑張ったほうだと思う。普段の桑田くんの勉強に対する姿勢を知っている人からしたら、目玉が飛び出るくらいの真面目具合だった。

拗ねていた彼は何処へやら。今はコンビニで買った適当なご飯を胃袋に収めて、満足そうにTVの電源をつけ、放送中のドラマに釘付けだ。
私のいたずら心はそんな桑田くんにいとも簡単に爆弾を落とす。


「あ、そうだ。桑田くん。私、今日泊まっていくね。」


「んえ?はっ!?」


「んふふ、お風呂借りるね。」


怜恩くん。


嗚呼、耳元で名前を囁きかけた時の彼の反応のなんと可愛いことか!


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