実習終わりに校庭を歩いていると、そこには一年の頃から世話を焼いている彼女の姿があった。だが、彼女はこちらを向かず、反応さえない。そりゃあそうだ、なまえは木に凭れかかって眠っているのだから。
気づいた喜八郎がつんつんとなまえをつつくが、一向に起きない。
「なまえ」
「うぅーん……」
「こんなところで寝ていると風邪を引くよ?」
「んー……」
「髪が乱れちゃうよ?なまえちゃん」
「……おい、なまえ起きないぞ。どうするんだ、滝夜叉丸」
「ふふん、案ずるな。私と喜八郎に策がある」
「すーすー……」
「なまえ、起きないと……七松先輩が来るぞ」
「あー、立花先輩もいるー」
「ふひゃあ!?」
素っ頓狂な声をあげてさっきまで微睡んでいたなまえが飛び起きる。すると怯えたように滝夜叉丸と喜八郎の背中に隠れるように丸まった。
「おはよう、なまえ」
「あ、あやちゃん……た、立花先輩は……?」
「んー?あー、何処かへ行ってしまったねぇ」
「たきちゃん、七松先輩、は……?」
「あぁ、一緒に行ったぞ」
嘘つけ、最初から先輩の姿なんてどこにもなかっただろうが。だが、なまえがここまで二つ上の先輩に怯えるものなのか。いや、なまえの場合その二人に対して、だろうか。まあ、なまえのようなお世辞でも忍者に向いてるとは言えない性格ならば、あの二人は苦手なのだろう。あの学年で怯える必要のない人と言えば、善法寺先輩と中在家先輩くらいだろう。
「なまえちゃん、おはよう。髪が崩れちゃってるよ?ボクが直してあげる!」
「タカ丸さん、ありがとうございます」
「もう、ボクもたかちゃんって呼んでほしいなぁ」
「うっ……すみません……」
「敬語もだめ!」
「ご、ごめん、たかちゃん。ありがとう」
「えへへ、どう致しまして!」
いつの間にやらタカ丸さんがなまえの髪を直し終えて、眠って崩れていた髪が元に戻っていた。
「なまえ、今から私たちと夕飯を食べないか?」
「わたしはみきちゃんと一緒で嬉しいけど、ユリコちゃんたちのお散歩は大丈夫?」
「心配ない、ユリコたちの散歩は朝に済ませてきた。今日は実戦実習があって朝からしか時間が無かったからな」
「ほんとう?じゃあ久しぶりにみきちゃんとご飯だね!」
「あぁ、そうだな」
それじゃあ行こう、と自然になまえの手を引いて立ち上がらせる。すると何を思ったか喜八郎がムスっとして私の横腹をつついてきた。
「!!うわっ!?何するんだ喜八郎!」
「べっつにー?さあなまえ、今日のご飯は何かなあ?」
「んー、なんだろねぇ?」
「今日はガッツリしたものが食べたいなぁ。もしなまえが食べきれなかったら僕が食べてあげる」
「いいの?ありがとう、あやちゃん」
「喜八郎、その前にその踏鋤を置いて来い、食堂には持っていけんだろう」
「ちぇーっ」
何故、団結力のない私達四年生が、なまえのことになるとここまでまとまって行動できるのか。この謎が忍術学園七不思議のひとつになっているということは、四年生のなかでは、まだ、誰も知らない。