※男主注意
我ながらなかなか順調な人生を送ってきたと思う。スラム街育ちの俺がまさか、あの本能寺学園の生徒会顧問に選ばれるとは、思いもしなかった。
この本能寺学園は、生徒会長の鬼龍院皐月様が絶対で、その皐月様に忠誠を誓っている、生徒会四天王。主にこの5人がいれば、学園は回る。それなのに顧問が、しかもこの俺が就くとは、一体どういうことなのだろうか。今でも甚だ疑問ではあるが、人生とは不思議だなぁ、といういかにもな感じの答えで片付けておこう。
ただ、そんな俺は、今とんでもない事態に陥っている。四天王の一人、犬牟田宝火に壁ドンされているのだ。正直に言おう、意味がわからない。
だが落ち着こう、下手に抵抗するとなんか色々俺の方がやばい気がする。主に俺の職業的意味で。神経を逆撫でしないようにそーっと……
「……おい、犬牟田?」
「何でしょう、先生」
「いや、何してるのかなーって……」
「先生を見てます」
「離してはくれないのかなー?」
「離さないといけない理由でも?」
お前が怖いからだよこんちくしょう!!いっつも顔下半分隠れててこえーんだよ!!なんで喋る度にパカッてなるの!?なんでメカっぽい音がすんの!?服だろそれ!?
落ち着け、落ち着け俺……なんでこんなことしてくるのか聞こう、大丈夫、俺先生だから、一応年上だから!
「お、俺の顔になんかついてる?」
「そうですねぇ……顔、というより、首でしょうか……」
「はっ?首?」
首に飯粒なんて付くはずがない。ひょっとしたら襟が汚れてる、とかか?
そんなことを思ってるうちに犬牟田は俺の首の皮膚にくっついてたそれーー絆創膏をいきなりひっぺがした。
「っっ!?いっでぇぇぇ!!!」
それにまだ粘着力があったせいか、剥がされたときに鋭い痛みを感じ生理的な涙が浮かんだ。
「おい、犬牟田!!テメェ何して……ギャアアアアア!?」
剥がされたかと思ったら、首吸われた。生暖かい湿ったモノが俺の首に這わされて、ちゅうっと、音を立てて、甘噛みされる。な、何してんだこいつ!?
「ちょっ……!?マジでお前、なにして……っ!?」
「上書き、です」
「はあ!?」
「他の誰かのモノになっているとは、思いもしませんでした、相手は誰ですか。俺の情報量全てを振り絞ってひねり潰します」
「は!?相手って……」
「絆創膏で隠すほどに熱烈なキスマークを残した雌猫のことです、ひょっとして、野郎ですか」
「はぁ!?キスマーク!?ちがうわ阿呆!……これはキスマークじゃねぇ!蚊に刺されただけだ!」
「……は?」
「ほっとくと掻き毟っちまうから、絆創膏貼ってただけだ!あー!もう!やっとこさ治りかけてたのに……!」
「…………」
なんでこいつそんなに目見開いてんだよ……顔上半分しか見えてねえから怖いんだけど……
「………で?なんで犬牟田は俺の首に噛み付いてきたんだ」
「……マーキングです」
はあ?
「先生を……なまえさんを取られると思ったら、つい……」
「なに?それじゃあまるでお前が俺のこと」
好きみたいじゃねえか、と言おうとした瞬間に、犬牟田は今度は俺の唇に噛み付いてきたのだった。