突然で申し訳ないが、私のこれまでの人生&半生をダイジェストでお送りしたいと思う。どうかブラウザバックせずに聞いてほしい。
就活中だった大学四年の私は酔っ払い運転の大型トラックに撥ねられて生涯を閉じた。はずだったのだ。
それなのに、気がついたら5歳児で、スラム街のような場所にいて、親も兄弟もいなかった。
幸い、スラム街には私と同じような境遇の子供なんてわんさか居たからか、そこまで自分の状況を嘆くことなんてなかったし、前世のぬるま湯に浸かったような生活から、一気にひもじくなったこともあったけれど、周りの子達と一緒に助け合いながら生きてきた。
その後、私は青い髪のイケメンに拾われて、決して普通とは言い難いけれど、スラム街時代から比べれば幾分ましな生活を送らせてもらった。
青い髪のイケメンーー名前を美木杉愛九郎さんというらしいーーは、一言で言うと脱ぎ癖のある変態だった。天は二物を与えないもんなんだなあ、としみじみ思った。
さて、そんなこんなで私は今年で16歳。精神年齢はもうすぐ40になりそうで震えている。とりあえず高校生になったのだ。本能寺学園という歴女が喜びそうな名前の高校に入学した翌日、私の人生はまたまた大きく変わった。
なんと、風紀委員長であるらしい、蟇郡苛先輩にプロポーズされてしまったのだ。
先輩曰く、入学式で私を見かけて一目惚れなるものをされたらしい。
いやいや、流石にねえだろ、って思いましたよ?きちんと断ろうと思ったのだけれど、残念ながら私は生粋の、NOと言えない日本人。体格から言葉から威圧されて縮み上がった私のへっぴり口はきっぱり断ることは出来なかった。
そんな私の口から出たのは、「いきなり結婚はちょっと……」というなんとも曖昧な答えだった。
ならば婚約者から始めようと押しに押され、画して私は本能寺学園の生徒会四天王であらせられる、蟇郡苛風紀委員長の婚約者となってしまい、その日から蟇郡先輩のお家に花嫁修行としてお世話になってしまっているのだ。これで私の人生&半生ダイジェストを終了します、はい解散!
そんなこんなで約3ヶ月。私は今、その蟇郡先輩と昼食をとっている。今日のご飯は、昨日の晩から仕込んできた煮込み豆腐ハンバーグがメインの、きちんと栄養バランスが整っている(であろう)お弁当だ。野菜もちゃんとメニューに加えているし、高校生男児が満足するガッツリ系でもある(蟇郡先輩二十歳だけど)。蟇郡先輩は身体がとても大きいしマッチョさんなので、お弁当のボリュームも私と比べたら10倍はあるんじゃないかってくらいのサイズだ。
「……む、なまえ」
「なんですか?がま……苛先輩」
そうそう、言い忘れていたが蟇郡先輩は名前で呼んでくれないと拗ねてしまう人である。一週間くらいは名字を呼んでいたのだけれど、その後ガチギレして運動不足な私に反比例するかのように腰を酷使されたのだ。前世は処女で死んだのに、今世は16で奪われたとか、世界はこんなにも進化していたのか。最近の高校生ませてるな、と痛む腰を労る暇もなく朦朧とした意識のなかで思ったのは記憶にも新しい。
「口もとにソースが付いている」
「え、本当ですか?」
もしやさっきの豆腐ハンバーグだな。慌ててハンカチを取り出して拭おうとすると、手が塞がれ影が私に落ちてきた。あ、キスされる。そう確信した瞬間にはもう、私と先輩の唇が触れ合っていた。
「苛先輩……あなた、風紀委員長ですよね、校内で風紀を一番守るべきお人がそのようなことをしてはいけません」
「うっ!いや、その……」
「………」
「すまない……なまえのことになると、理性が効かんのだ」
どうやら、この人は本当に私のことが好きなようだ。あながち皐月様に言われた先輩の私についてのお惚気は嘘ではないらしい。
「……はぁ。お家に帰ったらしてもいいですから。それまでおあずけです!」
「!」
まあ、人生は諦めも肝心だと言うようだし。流されるまま、生きてみるのも悪くはないだろうか。目の前のこの人に付き合って今夜を乗り切ることに自信はないけれど。