3万ヒット | ナノ

わたしとお姉ちゃんを男手ひとつで育ててくれたパパが再婚することになった。相手はすごく美人な、だけれどそれを鼻にかけることのないさっぱりした性格の女の人。名前は朝日奈美和さん。お姉ちゃんとわたしをとても嬉しそうに見ていた。この人なら、パパを幸せにしてくれる……そう思って、わたしとお姉ちゃんは二人の結婚に賛成した。

でも、美和さんの苗字を聞いて、気づくべきだったんだ。わたしに辱めと劣等感しかもたらさない魔王のようなアイドルと、キョーダイになってしまったという事実に……。


突然だが、わたしは世間で大人気のアイドル、朝倉風斗(それは芸名らしく、学校は本名の朝日奈風斗で通っているけど)と同じ中学に通っている。しかも同じクラス、隣の席。
普通の女の子であれば、彼のキラキラアイドルオーラでイチコロなのだろう。現にキャーキャー言われているし、隣の席ってことでわたしは彼の取り巻き女子からやっかみを受けていたほどだ。
だがしかし、ヤツ……朝日奈風斗は、ほかの女の子にはテレビで向けているような笑顔を向けているというのに、何故かわたしにはものすごく年頃の中学生らしい生意気な態度でわたしにパシリをさせたり、自尊心がポッキリ折れるような一言をかましてくるのだ。

「ボク喉渇いちゃった〜!ねぇ、ジュース買ってきて」とか、「アンタブスなんだからせめて愛想よく笑えば?」とか、「ノロマの癖にボクに指図しないでくれる〜?」とか……挙げだしたらキリがない。そりゃ確かに、わたしはお姉ちゃんみたいな可愛い顔の作りはしてないと思うし、要領の悪いわたしは、何事も時間をかけないとできない。だけど、そこまで言う必要って、どこにあるんだろう。しかもそれが取り巻きには全く知られてないとか、どんな技しかけてるの?なんなの?わたし何も朝日奈くんにしてないよね?何が気に食わないの?誠に遺憾である。



そんな彼とほか兄弟合わせて13人と、わたしとお姉ちゃんはいきなりキョーダイになったのだ。神様は私のことが嫌いなのだろうか、向こう脛にローキックかましてやりたい。



「なまえ〜★」

「つ、椿さん。どうかしましたか?」

いきなり後ろから抱きついてきた椿さんに私はちょっとだけたじろぐ。どうやらこの人は、「妹」という存在が好きなようで、暇さえあれば梓さんか、お姉ちゃんかわたしにひっきりなしに構ってくる。


「んも〜、なまえったらそんなに固くならなくていいんだゾ〜?まあ、黒髪おしとやかな大和撫子系妹もオレは大好きだけどさ〜!」

「はっ?」

「なんたって俺たちは〜、風斗嫌い同盟の仲間だしね〜★」

そう、朝日奈風斗が兄弟になると知ったあの日、椿さんにわたしは風斗くんが嫌い、というか苦手であることを見抜かれてしまった。さすがに自分の弟が苦手なものにインプットされているなんて、失礼だろうか。そう思っていたのに、椿さんのわたしに対する印象は、私が想像していたものと真逆、つまり、おおいにわたしに賛同してくれたのである。あの時はとても感動した。今まで学校にもいなかった味方が出来たのだ。そうしてわたしは椿さんに風斗くんのわたしにしてきた悪行を訴え、『風斗くん嫌い同盟』というなんともなネーミングセンスの同盟を組んだのだ。ちなみにこの同盟に加入しているのは、わたしと椿さんと侑介さんの三人である。


「ただいま〜……って、何してるワケ?」


そうこうしているうちに、魔王様のご帰還である。全くもって嬉しくない。もっと仕事頑張ればいいのに、いっそのこと全国ツアーとかして家に帰ってこなければ、わたしは家でも学校でも風斗くんにいじめられることなんてないのに……!


「ねぇ、何してるのって聞いてるんだけど?耳まで遠くなったの?」

「な、何も……」

「じゃあその後ろにひっついてるチャラ声優は一体何なわけ?疲れて帰ってきたボクに向かってなんの嫌がらせ?可愛くないんだからせめて愛想よくお茶でも出してよ」

「風斗、お前なぁ……!」

「いっ、いいです!椿さん!わたし、お茶淹れてきますから!椿さんは、何が飲みたいですか?」


中学入学時から風斗くんにいじめられ続けて学んだこと。それは、わたしは彼に復讐とか、侑介さんみたいにぎゃふんと言わせたいとか、そんな大それたことをしたいわけではないのだ。ただ、風斗くんにいじめられずに、放っておいてほしいだけなのである。そのためには、彼の機嫌をなるべく損ねないように、ちゃっちゃとお茶を出して、彼の前から退散することが今は一番の策だ。


「……なんだよ、そのボクが悪いみたいな言い方」

「そ、そんなこと……」

「だいたい!!ボクにはそんなよそよそしい態度とるくせに、そこのチャラ声優とか、あの馬鹿には懐くなんて、シュミ悪すぎ!!ボクのほうがなまえを見つけたの早かったし!!なまえの好きなものとか、ボクの方が知ってるし!!」

「お、おい……風斗お前、ひょっとして墓穴掘ってないか?」

「はぁ?イミわかんない!何言っ……」

途端、風斗くんの顔が茹でだこみたいに真っ赤になった。え?なに?どういうこと?


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