わたしはペコちゃんの一番にはなれない。ペコちゃんの一番は、いつだって冬彦坊っちゃんだから。
でも、わたしはペコちゃんが好き。ペコちゃんと同じで、生まれた頃に捨てられて九頭龍組に育てられたわたしは、同じ境遇のペコちゃんに恋をしてしまった。
ペコちゃんの好きな色が黒だって知って、自分が黒髪で良かったって思ったし、強かに見えて本当は普通の女の子と同じペコちゃんの相談相手になった。
一種の刷り込みなのかもしれない。自己暗示で、ペコちゃんは誰よりも私の気持ちを分かってくれる、なんて感じていた。優しく撫でてくれるペコちゃんの手が好き。さくらんぼを思わせる真っ赤な目が好き。銀色のキラキラした柔らかそうな髪が好き。もふもふな動物が好きな優しいペコちゃんが好き。
でも、わたしはペコちゃんが一番好きなのに、ペコちゃんの一番はわたしじゃない。そんなの分かってる。わたしとペコちゃんは女の子同士で、ペコちゃんはわたしのことを友達くらいにしか思ってくれてない。
そんなこと分かってると自分で言い聞かせておきながら、心の中では、いつも自分勝手なわたしが、ペコちゃんのことを責めてる。
どうして分かってくれないの、どうして好きになってくれないの、わたしが欲しいのは友愛じゃないの、わたしはペコちゃんの一番になりたいの、どうして坊っちゃんなの……って。
「どう思う?わたし、矛盾いっぱいなの。好きなのに、ペコちゃんが好きなのに、意地悪なわたしがペコちゃんを責めてるの。」
言葉を吐き出したわたしに、日向君が目を丸くしたあと、何事も無いようにサラリと答えた。
「……好きなら、しょうがないんじゃないか?」
「え……」
「みょうじが辺古山を好きなのはすごく分かった。そんだけ好きなら、相手に嫉妬して当然だと思う。」
それとも、お前は俺が諦めろって言ったら簡単に辺古山を諦められるのか?
「そ、」
「ん?」
「そんなわけないじゃんーーー!!」
「!?お、おい泣くなよ!」
「うぇっ、だって、そんな簡単に諦められたら、こんなっ、悩んでないもん!誰に言われても、諦めたくないんだもん!!」
「……じゃあ、その気持ちを辺古山に伝えたらどうだ?」
「ひっく、だって、女の子同士だし、ペコちゃんは坊っちゃんが一番で、迷惑……」
「もし振られたら、俺がまた愚痴にでもなんでも付き合ってやるから」
「ほ、ほんとうっ?」
「おう」
「や、約束!」
「はいはい」
指切りを日向君としていると、不意に誰かの声がした。言わずもがな分かる。わたしがずっと恋をしてる女の子、ペコちゃんだ。
「なまえ」
「ペコちゃん!」
「どうしたんだ?日向と手を繋いで」
「んー?あのね、約束してたの。」
「……何の約束だ?」
一瞬、ペコちゃんの真っ赤な瞳が真っ青になったように冷たくなった気がした。でも、私の勘違いだろう。
「秘密!それよりね、ペコちゃん。わたし、ペコちゃんにお話があるの!」
「ん?何だ?」
日向君の指を解いて、ペコちゃんに向き合うと、白い手が私を撫でてくれた。えへ、気持ちいい。
「大事なお話だから、私かペコちゃんのコテージで話そう?」
「そうか。では日向、なまえを借りてゆくぞ」
「お、おお……」
日向君は、島は暑いのに冷や汗をかいていたけれど、初めてペコちゃんの方から繋いでくれた手に、頭がいっぱいいっぱいだった。
「"借りてゆくぞ"って……絶対返す気ないよな、辺古山の奴……」
そんなことを呟いていた日向君を、私はまだ知らない。