金八


サプライジング・セレブレーション!のおまけ





 さて、昨日は豪炎寺の誕生日で、金八のみんなでお祝いをした訳だけど………、円堂の合図でハッピーバースデーを吹いたあの時、楽器を下ろしたのは豪炎寺だけじゃないってことをみんな知ってるだろうか。

 実は俺、風丸一郎太も豪炎寺と一緒に楽器を下ろしたんだ。



 豪炎寺をお祝いしようっていう話は豪炎寺の誕生日の一週間くらい前から持ち上がった。去年は深刻系でいったから今年は最初からぱーっと明るいものにしよう、と円堂から提案があった。円堂の頭の中で既にどう祝うか決まってはいるらしいが、そこから先は豪炎寺を除いた金八メンバーにも秘密らしく、「また前日な!」と言って笑っていた。

 そして前日。円堂から一通のメールを受信した。俺は豪炎寺のお祝いの件だろうと思いいそいそと中身を見る。
『明日、tutti終わった後に金八の練習するから、急いで駐輪場に集まってくれ!』
 あれ、と俺は思った。これは、練習の連絡じゃないか。でも、円堂は忘れているのかもしれないな、と思って俺は、
『了解』
 とだけ返信した。



 翌日。tuttiが終わって俺たちは駐輪場に集合した。
「じゃあ最初から行くぞ!」
 円堂が大きな声で言う。円堂が楽器を構えるのを見て、それと同時に俺たちも楽器を構える。円堂が下、上、と楽器を振るのに合わせて息を吸い、曲の一番最初の音を出した――おかしい。みんなと俺と調が合わない。ストップ、やり直しだ。
 そう思って楽器を下ろすと、なんと聞こえてきたのは金八の曲じゃなくて、ハッピーバースデー……。右を向くと、豪炎寺が驚いた顔でハッピーバースデーを聴いている。円堂はしてやったり顔だ。

 だけど……、だけど、俺は?
 誕生日じゃない上に、何があったか分からない俺は、どんな顔をしてこれを聞けばいいんだ?

 曲が終わると、円堂は
「豪炎寺! 誕生日おめでとう!」
 と叫んだ。みんなも口々におめでとう、と言う。部室の方からも拍手や歓声が聞こえる。まだ気が動転してるけど、隣にいる俺が何も言わないのも悪いから、とりあえず重い口を開く。
「豪炎寺、おめでとう」
「ありがとな」
 豪炎寺にしては珍しく照れている。やっぱり、嬉しいんだよな、祝ってもらうの。

 だんだんと周りが静かになってくると、円堂が俺に飛びかかってきた。
「風丸! 何で吹かなかったんだよ!」
 そんなに腹を立てている様子ではないが、頬を膨らませている。
「は、何のこと……」
「昨日メール送っただろ!」
 何で吹かなかったか、と聞かれても心当たりのない俺は素直に質問を口にする。しかしそれさえも円堂に遮られる。
「メールって、tuttiの後練習するぞってやつ……?」
「もう一通送ったはずなんだけど」
「来てないぞ、そんなメール」
 俺がケータイを円堂に見せると、円堂は慌てて自分のケータイを探した。
「あっ……!」
「どうした?」
「風丸にだけ、送ってない……」
 まさかの円堂のボケに、その場にいた金八メンバー全員がずっこけた。


アナザーサプライズ


『さっきのメール、実は嘘。駐輪場に集まるまでは本当だけど、俺がザッツ出したらみんなは曲じゃなくてハッピーバースデーを吹いてくれ! ちなみに豪炎寺には秘密だから、よろしくな!』





ザッツ=アインザッツの略。
アンサンブルで曲を吹き始める時の出だしの合図のこと。またはそれを出すこと。

※豪炎寺以外の金八メンバーのうち風丸さんにだけ最後のメールが送られてなくて、風丸さんはハッピーバースデーを吹くことを知らなかったという話。


2011.3.28 修正
2019.3.11 修正


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