Eu基山





 昼休みに円堂が教室に駆け込んできた。
「今年の金八はテレプシだって!」
 基山にそう言う円堂の頬が赤いのは、急いで音楽室から走ってきたからか、それともアンサンブルの楽譜を久遠から受け取った興奮からか。
「テレプシかあ……これはまたどメジャーな選曲だね」
「久遠先生が冬は古典やれって」
「ふうん……円堂くん、他のみんなにはもう配ったのかい?」
「ああ、ヒロトに渡して終わりだ」
「そっか、ありがとう」
 基山は円堂から楽譜を受け取ると、ぱらぱらと目を通す。しかし、一通り見終わってとあることに気がついた基山は、顔を青くしてもう一度楽譜を見る。
「円堂くん、あの」
 そう言う基山の顔には絶望の色が浮かんでいる。
「どうしたヒロト?」
「この三曲、選んだの久遠先生だよね」
「そうだけど、どうかしたのか?」
「ちょっと、ついてきてくれないか」

 基山が円堂の手を引っ張って辿り着いたのは、音楽準備室。基山は一回深呼吸して息を整え、コンコンとノックをし、音楽準備室に入った。
「失礼します」
「基山か……どうした」
 久遠は優雅にコーヒーを飲んでいた。生徒がこんなに困ってるのに、先生ってえらく気楽なんだなあとある意味基山は感心した。
「……先生、あの……」
 基山は机に楽譜を広げながら言う。
「今年のアンサンブル、テレプシやるのはいいんですけど、どうしてこの三曲を選んだんですか?」
「ああ、そのことか……ちょうど円堂もいることだし、説明してやろう」
 久遠はコーヒーカップを置いて座り直した。
「まずEntree、これはアントレと言って西洋料理の主料理の前に出される料理の意味もある。要するに導入という訳だ。だからとりあえずこれはやると」
「はい……」
「そして三曲目のVolte。ペットが大変だが、やはりこれがあってのテレプシだろう」
「ではなぜ間にバレエを……」
「EntreeもVolteも割とテンポの速い曲だから、ゆったりした曲も入れておかないといけないからな」
 久遠の説明を聞き、基山はふう、と息をついた。
「ありがとうございます、先生の考えがよく分かりました」
「いや、いつか金八のメンバーには言おうと思っていたんだ……基山がわざわざ聞きにくるとは思わなかったがな」
 どうしたんだ、と久遠に聞かれて基山は机をばん、と叩いた。
「どうしたも何もないですよ! この三曲じゃ俺、ユーフォ吹けないんですけど……!」
 基山の言葉に、円堂はええっ、と言って楽譜をよく見た。
「本当だ……! 打楽器のパート、全部Trb.3って書いてある……!」
「ボーンは鬼道くんと綱海くんの二人だけだから、ボーンのサードは俺だよね、だからこの三曲、俺全部打楽器なんだ……!」
 基山は崩れ落ちた。そんな基山の代わりに円堂が久遠を見つめると、
「あ、気が付かなかった……」
 円堂はずっこけた。
「先生……曲代えてください……」
「ああ、悪かった……じゃあ、EntreeとCouranteとBoureeにしよう」
「はい……」

 こうして基山はテレプシでもユーフォを吹けるようになった。


僕だっているんです


 いくら影の薄い楽器だからって!





おまけ


「あ……こんな低い音出ない……」
「どうした」
「ごめん染岡くん、ここだけ俺の代わりに吹いてくれないかな」
「ああ、これはユーフォじゃ出ねえよな……分かった」
「せっかく曲代えてもらったのになあ……」



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M.Praetorius TEREPSICHORE

今回題材にしたのは山○修○さん編曲版のテレプシ
こういう曲は結構ユーフォが不遇だったりする


2011.3.26 修正
2019.3.11 修正


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