中学校新入生





「はああっ」
 熱斗は制服を脱ぎ捨てると、きちんと整えられたベッドにぼふっと飛び込んだ。
 直後、制服はちゃんとハンガーに掛けなさいとのお声が掛かったので、熱斗はゆっくり起き上がって、後でも良いじゃん、などとぶつぶつと文句を言いながら制服をクローゼットの中に仕舞った。
 そしてまたゆらりとベッドの横まで歩き、今度は後ろに倒れ込む。レースカーテンの隙間から差し込む西日が眩しい。きつく目を閉じても、それをこじ開けようとするかのような光だった。
 鬱陶しい前髪をわしゃわしゃと掻き上げると、母が開けておいてくれた窓から、心地よい風がカーテンを揺らし、春の夕暮れの匂いを連れてやってくるのが感じられた。
 息を長く長く吐くと、体の重みだけでなく、熱斗の全てを受け入れてくれそうなベッドに、意識をも持って行かれそうになった。

 慣れない環境。新しい仲間。難しい授業。
 楽しいことも多いけれど、目まぐるしく過ぎ去っていく日々には少なからず戸惑いを感じていた。
 そしてさすがに今日の体育の授業はかっ飛ばしすぎた。目一杯体を動かすことで溜まっていた鬱憤を晴らしたかったのだが、疲れが半端ではない。眠くてしょうがないのだ。さすがにもう熱斗に口を挟む者はいなくなった。

 少しずつ微睡んでいくと、ふと、遠くアメロッパの地に飛び立った、ある人物の姿が瞼の裏に浮かんだ。
 時間があれば、近況報告も兼ねてメールの一つくらい送ってやっても良かったのに、あまりにもやることと考えることが多すぎて、奴のことなんかすっかり頭の中から抜け落ちていた。
アイツ、今ごろ何してんのかな……と、深く沈んでいく思考の中から、ぽかりとそんな考えが浮かんできたものだから、熱斗は慌ててがばっと飛び起きた。

 ……何考えてんだ、俺。

 いつの間にかだいぶ時間が経っていて、やってくる風は先程より涼しく、窓の外はもう暗い。部屋まで夕飯の香りが漂ってくる。

 ああもう、他のクラスメイトならまだしも。なんで、アイツが。

 熱斗は、何故あの姿を思い浮かべただけで少し寂しくなるのか、そして何故顔が熱くなるのかよく分からないまま、顔の火照りが引くまでベッドの端で頭を抱えてじっとしている他なかった。


ふとした温もりに誰かを重ねた


2012.5.16
2018.11.10 修正


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