「……おや」
 科学省の一角、休憩スペースのベンチに、名前が寝ている。
「名前」
 炎山が声をかけても、起きる気配が全くない。

 まあ、無理もないか。

 ここ数日、連続したダークロイドの襲撃によりずっと戦いに駆り出されていた。休んでいる暇も眠る暇もほとんどなく、ギリギリでやっと戦いを制したところだ。名前も張っていた気が緩んでしまったのだろう。
「……まあ、戦ってこそないが、俺も、疲れたしな」
 炎山は近くの自販機で飲み物を2本買うと、名前の寝ている頭の隣に座った。微かに寝息をたてて寝ている名前に、急に愛おしさが増して自然に体が動いた。
 名前の柔らかい頬にそっと口づける。名前の眉間にしわが寄ったので、起こしたか、と思ったがそうではなかった。今なお眠り続ける名前に、聞こえはしないだろうと思って小さく声をかけた。
「名前、……いつも、その……戦ってくれて、ありがとな…俺はブルースがいなくて一緒に戦えないが、名前が頑張ってるから、俺も、みんなも頑張ろうって思えるんだ。本当に……ありがとう」
 炎山はそこで一度言葉を切って、思い切ったように言った。
「あの……その、名前はそうじゃないかもしれないが、俺は名前のこと、好きだからな」
 炎山はほんのりと頬を赤く染めて言い、名前の手にさきほど買った缶ジュースを握らせ、足早に去っていった。


どうも僕らの幸せは恋の味がするらしい


 その直後、名前が顔を真っ赤にして飛び起きたのを、そして炎山が去っていった方を睨みつけていたのを、炎山は知らない。


2011.3.28 修正
2019.3.11 修正


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