「はあ〜……かわいいなあ〜……」
 サンタクロースの衣装を身に纏った白猫を目の前に、ミオの声と表情は緩みに緩みまくっていた。ミオが差し出した手に自ら頬を擦りつける姿は何とも愛らしい。私の顔もミオに負けないくらい緩んでいることだろう。

 昨日降った雪があちこちに腰を下ろしている中、広場の木という木に電飾を取り付けようと意気込んでいたミオ(と、あまりの熱意に動かされてしまった私)だったが、あまりの寒さに耐えられず「ちょっと休憩しよっか……?」と、にゃーでんすにやってきたのだった。暖かい空気と甘いココア、それに猫たちの愛くるしさに時間はあっという間に溶けていった。ふと時計を見ると、もうすぐ夕暮れが来るというところになっていた。この時期の夕暮れから夜の入りは早い。私はぐいとココアを飲み干す。
「ミオ、そろそろ行かないと」
「わっ、もうそんな時間?」
 ミオも慌てて立ち上がる。いきなり撫でるのをやめられた猫が、にゃん? と名残惜しそうに鳴いて机から飛び降りた。

 飾り付けを終えてあとは微調整、というところでナガミミから通信が入った。
「あー、オマエら、すまんがライトアップは諦めてくれ」
「そんなあ……こんなにがんばって飾り付けたのに。ナガミミちゃん、どうして?」
「電飾に回す電力がねえんだよ。この寒さでどのフロアも暖房フル稼働だ、一晩中ただ木を光らせるなんて電力のムダだ、ムダ! ……まあ、どうしても光らせたいってんなら、どっかで資材を大量に見つけてくるんだな、フヒヒヒ……」
「そう言われても……ヤイバ、どうしよう?」
 そのとき、積もっていた雪の一部が突然ぼこっと持ち上がり、その下から大きな咆哮を上げて白いドラゴンが姿を現した。冷気で冷え切っていた体が、今度は内側からスーッと冷える。
「こんなところに!」
「ヤイバ……!」
 咄嗟に腰の双剣に手をやったところで私は一旦深呼吸をして周りを見渡し、他にドラゴンがいないことを確認する。一体だけなら、私一人でなんとでもできる。
「――ハアッ!!」
 懐に迷いなく飛び込んで一撃。真っ赤な十字の切り傷に、あっけなく崩れ落ちるドラゴン。双剣を鞘に収めると、ナガミミの声が耳に入った。
「まさか、DZが手に入るとは……チッ、しょうがねえな、やってやらんこともない」
 それを聞いたミオが、私の後ろで「やったー!」と飛び跳ねていた。

「いよいよだね、ヤイバ」
 もう陽は完全に落ちて、寒さも一層身に沁みる。まるでサンタクロースの衣装のような縁に白いボアのついたダッフルコートを着込んで、耳も鼻も頬も赤くしたミオがにこにこと私を見上げる。
「……じゃあ、いくぞ」
「3! 2! 1!」
 他の見物客と一緒に、ゼロ、と叫んだ瞬間、ぱっと辺りが明るくなって、口々に感嘆の声が漏れる。
「きれいだね、ヤイバ」
「うん」
 イルミネーションに負けないくらいにミオの笑顔も輝いている。その笑顔を見ながら、ミオがサンタクロースなら、私はミオの笑顔をもらってばっかりだなあ、とふと思った。
 じゃあ、私がミオに返せる、あげられるものってなんだろう? 私は、マモノやドラゴンを狩る事しかできないけれど。私や他の13班のみんなやノーデンスのみんな、それからISDFの人たち、みんなの頑張りがミオの笑顔になるといいな、そんなことを、真冬の夜に輝く光を見ながらそっと願った。


きみの手のひらが冷たくないように





2021.12.19開催、ななどらシリーズエアオンリー企画「人と竜の物語」の当日企画のワンライでお題「クリスマス」で2時間ほどで書いたお話です。せっかくなので(?)書いたものをそのまま載せておきます。(いつか書き換えられてたら笑ってください)

2021.12.31


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