わっ、という周りの歓声で、どくんと心臓が動き出したかのようだった。
 目の前には、『YOU WIN』の赤い文字が点滅するモニター。手元には、何かを動かすレバーと、色とりどりのボタン。どうやら自分は何かのゲームをプレイしていたようだ。そのプレイを見ていたであろう周りの人からの称賛の歓声や拍手がまだ止まない。
「おい、誰だよアイツ?」
「知らねえなあ、初めて見た」
「遠征組ってヤツかな?」
「おお、そうかもしれん」
 自分がどういうプレイをしたのか分からないけれど、こんなに褒め称えられるなんて、このゲームをクリアすることはよっぽど難しいのだろうか?
 盛り上がる周囲とは対照的に、自分の心は至って平静だった。いや、決して冷静な訳ではなく、頭の中に渦巻く妙な違和感にただ何も言えず立ち尽くしているだけだった。

 ――ここは、どこだろう?
 ――自分は、なんでここにいるんだっけ?

 その思考を、独特な色の声が遮った。
「アンタ、お手柄よ!」
 観客の壁が割れて、その間から謎のオジサン……いや、謎のオネエが姿を現した。
「コイツら何が目的なのか知らないけど、ずっとここに敵モンスターやボスのフリをしてハッキングしてきてて、何人も凄腕プレーヤーに倒してもらおうとしたんだけど全然ダメでねえ……よくやったわ、褒めてあげる」
「は、はあ……」
「……あら、135億とんで1点!? これはプロでもなかなか出ないスコアよ! アンタ、すごいわねえ」
 そして謎のオネエは手元のクリップボードに挟まれた紙を見る。
「しかしこの、『DRAGON』……どらごん、って言うのかしら? ハッカーのチーム名かコードネームなのかなんだか知らないけど、アクセスログがやっと入手できたんだもの、きっちりお礼は返させてもらうわよ」
 クリップボードの端を手に皺が寄るほど握りしめて謎のオネエは燃えていた。
「じゃあね、カワイコちゃん。これからもご贔屓によろしくね☆」
 そう言って謎のオネエは足早に去っていった。
「……え、誰、今の」
「知らねえのかよ、ここの社長だよ」
「え!? あんなオネエが社長なの、ここ?」
「しかし世界が誇る一大ゲーム開発会社だろ、ここ? ハッキングに手こずったりプロプレーヤー引っ張ってきたりしまいには社長まで出てくる事態ってなんなんだよ」
「まあ、それだけこのゲームに社運かけてんだろ」
「実際コレで一番稼いでるもんな」
「俺たちもついうっかり貢いじまってるしなー」
「ハハハ、って、いや笑えねえな」
 謎のオネエが去った後を何を見るでもなく見つめる。
 ……あの人、知り合いか何かだったっけ? 何故かあのオネエにはいろいろお世話になっていたような気がする。あまりよく覚えていないけれど。
「お客様! お客様ー!」
 受付嬢だろうか、自分に向かって呼び掛ける声がする。オネエが通った後もそのままになっていた観客の間を抜けて、これは……受付嬢……なのだろうか、受付嬢というよりは少女といった方がしっくりくる、金髪をお下げにした女の人が駆け寄ってきた。
「こちらへお越しくださいませ!」
 そう言うが早いか少女は自分の腕を引っ張る。観客の間から抜け出して人影がなくなる所まで行くと、少女は突然、先ほどまでとは打って変わった声色で喋り出した。
「フヒヒヒ……よくやったじゃねえか」
 そしてどこか見覚えのある、勝ち気で嫌味っぽい、それでいて、かわいらしく愛嬌のある顔で、にやりと笑った。



TRY AGAIN?





みわせんせいが去年投稿されたムラクモ13班のifイラストに関して「ドラゴンを垢BAN」っておっしゃってたときに思いついたネタ
この展開でこのタイトルはちょっと酷かな〜なんて思いながら……
本当はどなたかに漫画で描いていただきたい表現が割とある(文章の限界)(他力本願)

2021.9.28


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