3.6章 合同訓練依頼の数日後
アスカ……サムライ♂A(逢坂さんボイス)
ハヤト……サムライ♂B(杉田さんボイス)
同級生DK





 ユウマはノーデンスの受付で13班は自室にいると聞きレストフロアに降り立った。大部屋を覗くと、アスカとハヤトの二人が机に向かい合って座り、真っ白になって沈黙していた。そして二人の前には二人と同じように真っ白な書類。
 これは一体どうしたことか、とユウマが声を掛けるより先に、アスカが突然頭を掻き毟りながら立ち上がって、「だあーっ!」と叫んだ。
「あーっ、もう! こんなのどうしたらいいんだよ!」
「明日提出っていきなり言われてもなあ……」
 ハヤトも腕組みをしたままま唸っている。
「大体なんで学校を数日休んだくらいでこんなの出さなきゃいけないんだよ? 今日の今日まで学校からこれが来てたのを隠してたナガミミもナガミミだしさあ……」
「まあ、ドラゴンが来たこんなご時世だから、学校としては俺たちの所在とか無事は確認しておきたいんじゃないか?」
「そうは言っても、まさか『そのドラゴンと戦ってました』とか『世界をドラゴンの脅威から救うために一万二千年前の世界に行ってました』とか書けるか?」
「……書けないな」
 そこで二人は深くため息をつく。ようやく声を掛けられそうな空白が訪れた。
「どうしたんですか、二人とも」
「おっ、ユウマじゃん!」
「どうしたんだ、というのはこっちの台詞だな」
「俺は先日の合同訓練のお礼に差し入れを持ってきたんです」
 そう言って手に持っていた包みを掲げてみせる。差し入れ、という言葉を聞いたからか、誰かのお腹がぐう、と降参の音を上げた。
「えっ、もうそんな時間なのかよ」
 アスカが驚いて時計を見上げると、十二時を少し過ぎた頃だった。
「三時間もこれと格闘してたのか……」
「その割には真っ白だけどな!」
「それを言うな」
「よし、じゃあ先に昼にしようぜ! ユウマも一緒に食べてくよな?」
「えっ、俺が食べたら君たちの分が……」
「大丈夫大丈夫、ここはキッチンもあるから簡単な物は作れるし、みんなが作ってくれた弁当もあるからさ!」
「せっかくノーデンスまで来たんだから、時間があるならゆっくりしていけばいいんじゃないか」
 言うが早いか真っ白な書類はさっさと片付けられ、机には大量の弁当が広げられる。そうしたらもう、ユウマには断る術がなかった。

 昼食を食べながら二人の話を聞くと、ノーデンスをドラゴンが襲った日から今日までの一週間ほど、二人が連絡もなく学校を休んでいることを不審に思った、あるいは心配した学校から事情の説明と保護者の確認を求める書類が届いたのだという。しかもそれは数日前にノーデンスに届いていたにも関わらず、なぜかナガミミが隠し持ち、提出期限である今日になって急に二人に渡してきたのだという。
 胃に物を入れ脳に栄養が回ったのか、二人の思考は急速に動き出したようだった。
「やっぱさ、保護者が確認したかどうかとかいう欄もアリーに頼むのがいいと思うんだよな」
 アスカが少ししんなりした唐揚げを頬張りながら言うと、
「そうするしかないか。ドラゴンと戦ってるとか俺たちが書いても信じてもらえないかもしれないから、それもアリーに言ってどうにかしてもらおう」
 ハヤトもほんのり甘い味付けの卵焼きを口に入れながら言う。
「アスカ、ハヤト、二人とも食事中に会話をするのはよくないですよ。食事に余計な時間がかかってしまう」
 既に食べ終わっているユウマが二人に指摘すると、二人とも一瞬だけ「突っ込むのはそこなのか?」と言いたげな真顔になって箸が止まったが、またすぐに食べ始め、会話も再開された。
 二人のその様子を見てユウマは密かに驚いていた。食事にかける時間はできるだけ短い方がいい。それに、食べる物もできるだけ簡素で、なおかつ栄養価や吸収効率の高いものがいい。それがユウマが食事をする上で理想としている事柄だった。
 しかし今眼前に広がる光景はその理想とはかけ離れていた。アスカとハヤトの会話の内容はノーデンス内のことに留まらず、話題は二人が通っている学校のクラスメイトや教師などにも及び、時には食事をすることも忘れてわいわいと盛り上がっている。
 正直なところ、その内容にはユウマは追いつけなかった。けれど、それを聞いているだけというのも決して居心地の悪いものではなかった。むしろ、まだこの二人の会話を聞き続けていたい、三人でいるこの時間をもっと長く共有していたいと思った。
「はーっ、美味かった!」
「それじゃ、行きますか」
「おう、アリーが忙しくならないうちにな!」
 昼食を食べ終わると片付けもそこそこに、じゃあな、ゆっくりしてけよ、と言い残してアスカとハヤトは去っていった。一人大部屋に残されるユウマ。二人がいなくなっただけなのに、この空間がとても寒々と広くなったように感じた。そして腹部に手を添えながら、しばし考え込む。
 ユウマが食べたのは、いつもと品目も量も同じISDFの携行食。それなのになぜか、いつもより満たされた感覚があるのが不思議だった。
 いつまでも浸っていたいようなその感覚を噛み締めていると、ISDFからの呼び出しを告げる電子音が鳴った。ユウマは反射的に立ち上がるが、その動作さえも普段より軽い。市街地に出現したマモノ討伐の要請だ、ユウマ、来れるか? というヨリトモの問いかけに、はい、すぐに行きます、と答え、ユウマはノーデンスを後にした。
 そう遠くない日に、また13班に会えることを期待しながら。


指先から温かくなる魔法




2022.10.10開催のななどらシリーズエアオンリー「人と竜の物語2」Day2のワンドロ・ワンライ企画でお題「お弁当/差し入れ」「NPC」で書いたお話です。どうしても遅刻してしまうのほんとごめんなさい。
拙宅の名前と容姿と声しか決まっていないサム男くんたちを出してみましたがユウマと男同士の絡みもなかなかいいですね(決してほもというわけではなく……ほもも好きですが)。

2022.10.11


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