あれだけ親しい関係だったのに、学園や寮はともかくとして、第一小隊や僕にまで連絡のたった一つも寄越さないというのは、一体どういう了見なんだろうか。
 世界各国を旅して回るというのだから、そりゃ頻繁に連絡を寄越すわけにもいかないのだろうけど、僕らはアラタが神威島を出て行ってからの四年間を、一番安否が気掛かりだったアラタが、どこで何をしているのか全く知らないまま過ごしていた。





 ヒカルたちの神威大門卒業がだんだんと迫ってくるある日のことだった。卒業研究に目処がついたヒカルは、この一年ずっと考えに考えて、さらに誰かにこれを言おうか言うまいか迷っていたとある計画を、ハルキとサクヤに打ち明ける決心をした。
 ヒカルのその計画を聞いた二人は、案の定ひどく驚いた。アラタに会いに行く。ヒカルが二人を前にしてようやっと絞り出せた言葉は簡素なものだったが、その短い言葉の中に、何も連絡をくれなかったアラタへの強い憤りと、何が何でもアラタに会ってやるんだというヒカルの揺るぎない決意を感じた。
「……しかし、アラタのいる場所の当てもないんじゃ、会いに行くと言っても無謀な気がするが」
「簡単な旅じゃないことは分かってる」
「それに、あのときのアラタにはジンさんがついてたからいいけど、ワールドセイバーは今も世界中で脅威になってるみたいだし、ヒカルだけじゃ危ないよ」
 僕らもついてこうか?とサクヤが提案したのを、ヒカルは断った。
「あのときのジンさんと今の僕が同い年だ、甘く見ないでくれ」
 もちろん二人もアラタに会いたがっているということはよく分かっている。だが、彼らの取り組んでいる卒業研究がヒカルのものよりも手強く、期限がここまで迫ってきていてもまだ完成に至れないでいるのをヒカルは知っていた。それに、もともと自分が一人で勝手に考え込んで、ようやく口にできた計画なのだ。二人を巻き添えにする必要はない。何人で行ったって、結局危険なものは危険だからだ。
「じゃあ、バル・ダイバーの調子をしっかり見とかないとね」
 真剣なヒカルの顔をまじまじと見つめてサクヤが言う。
「僕も調子を見るくらいなら……」
「いいんだよ。いざという時にちゃんと動かないと困るだろ?こういうときこそメカニックを頼ってよ」
「すまない。ありがとう」
「ところで、いつ島を出るつもりだ?」
 ハルキが欠伸を噛み殺しながらヒカルに訊く。ハルキもサクヤも隈がとても目立つ。
「週末か、次の船が出るときくらいには」
「本当にすぐ行くんだな」
 ヒカルが黙ったまま頷くと、ハルキは突然あのときのような鋭い目になって、重い声で言った。
「……無事でいろよ」

 ヒカルが出発する朝は、まだ肌寒い風の吹く日だった。それでも空はすっきりしていて、春の訪れはもうすぐそこだということを実感させてくれる。
「それじゃあ」
 ヒカルは言葉少なに船に乗り込む。見送りに来てくれたハルキとサクヤを船の上から見ながら高まるこの鼓動は、きっとアラタに会えるという期待からか、それとも、これから始まるほとんど当てのない旅への不安からか。どちらかというと、不安の方が大きい気がするけれど。
「いってらっしゃい!」
 サクヤが叫んで、ハルキが控えめに手を振る。
 
 ――これから始まる僕の旅は、一体どんな結末を迎えるんだろう。

 春を待っている綺麗な青色の空に、きっと、きっと、アラタに会えるだろうという希望を見て、ヒカルは神威島を後にした。


終わりへの始まり


2016.1.18


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