熱斗は自室に置かれた扇風機の前で、顔一面に強風を受けていた。
「あちー」
とうにバンダナは外され、服もいつもの半ズボンに、上はタンクトップだけになっている。しかし、それでも夏の蒸すような暑さには敵わない。太陽は何の遠慮もなく照り続け、蝉たちは煩く鳴き立てている。
「炎山おっせえー」
ドアの方を振り返りながら、熱斗は小さく呟いた。今日は炎山の予定に余裕があるということで、炎山が熱斗の家に来ることになっているのだ。しかしその約束の時間はとうに過ぎてしまっている。
「どうしたんだろな、炎山」
せっかく一緒にいられるのに、これじゃいつもとそんなに変わんないよ。熱斗はため息を吐くと、ばたりと床に倒れ込んだ。ちょうど時間帯も相まって、眠気が襲ってきたのだ。熱斗は右腕を目の辺りに添えると、ゆっくりと眠りの世界に落ちていった。



果たして寝覚めというものは、いつも唐突に来るものなのだろうか。
「うわっ!」
気持ち良く寝ていたところに、突然首筋に冷たいものが当たったので、熱斗は跳ね起きた。そして後ろを振り向くと、いつの間に入ってきたのだろうか、いつも着ているジャケットを脱いで腕に掛け、腕捲りをした炎山がいた。
「な、なんだよ炎山か……」
びっくりしたー、と熱斗が胸を撫で下ろすと、炎山は言った。
「とんだ寝起きっぷりだな」
「し、仕方ないだろ!」
炎山は熱斗の余りの驚きっぷりに驚いているようだった。額の汗を拭いながら、少し用があってな、と炎山が言うと、いつもそればっかりだ、と熱斗に返された。
「もう、せっかく楽しみにしてたのにさー」
熱斗は口を尖らせている。
「寝てたのはお前じゃないか」
「炎山が早く来ないからだ!」
「だから用があったと言っているだろう」
ひょんなことから口喧嘩になってしまうのはいつものことで、それは二人も重々承知していることなのだが、約束を(少しではあるが)破られたことが原因なのだろうか、いつもよりも熱斗の機嫌が悪かった。
未だにぶつぶつと文句を垂れている熱斗を見て炎山は何かを思い付いたようで、持ってきたビニール袋をがさがさとし始めた。
「だから炎山はいっつも……」
「いいからこれを食え」
そう言って炎山は文句を言う熱斗の口に栓をするように、買ってきた棒アイスを突っ込んだ。
「……美味い」
熱斗は目をぱちぱちさせながら、口に広がった爽やかな甘さに虜になっている。炎山が得意気に「期間限定マンゴー味」と書かれた袋をはためかせながら「これを探していたんだがな」と言うのを聞いて、熱斗は何も言えなくなってしまった。


夏は魅惑の味がした


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すいさんから「棒アイスを食べる炎熱」というリクエストを頂きました!

やっぱりこの二人を絡ませるのは楽しい……というか炎山さまがアイス食べてないですね(´∀`;)
炎山さまはいつも一枚上手なイメージがあります。で、熱斗くんは振り回されてしまうという。炎山さまが振り回されてるのも好きなんですがね(^o^)

よろしければお持ち帰りくださいませ〜^^
リクエストありがとうございました!


2011.8.31


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