※アツヤ生存設定
「あー、生き返るー」
「ほい、麦茶な」
「ありがとー」
私は今、吹雪家に来ていた。このくそ暑い中、直射日光をがんがんに浴びながら歩いてきた私にとって、クーラーの効いた涼しい部屋は癒しでしかない
出迎えてくれたアツヤが淹れてくれた麦茶もキンキンに冷えていて、氷がからんと音をたてた
「あれ、士郎くんは?」
「円堂達とサッカー」
「アツヤはいいの?」
普段なら喜んで一緒に行くのに。こんな暑い中、よくサッカーなんかできるよなぁ。感心しちゃう
「あ?あぁ。名前が来るって言ってたし、アツヤは課題やりなさいって兄貴にも言われたからな」
「…そんなに課題溜まってるの?」
前半は聞かなかったことにしよう。私のためにアツヤが大好きなサッカーに行かなかったみたいだから
アツヤはたまに涼しそうな顔してそういうこと言うから、心臓に悪い。アツヤは、兄貴はキザだ!とか言うけど、アツヤは確実にそんな士郎くんの弟だ。本人達に自覚がないんだから質が悪い
「うん。全く手ぇつけてねぇもん」
「そりゃあ、サッカーやってる場合じゃないね」
「だろ?だから名前に教えてもらおうと思って」
「何でそんなに自信満々なの…」
つい、サッカーとかゲームとかしちゃうんだよなぁ、などと呟きながらアツヤは課題を用意する。広げられた数学のワークは確かに真っ白だ
「じゃ、お願いしまーす。名前せんせー」
「こんな不真面目が生徒だなんて…」
「どういう意味だコラ」
それから私はアツヤがわからねぇ、と言った場所の解説をしていった。私もこないだワークをやったばかりだからある程度は覚えている
アツヤもやる気がないだけで、理解できれば早いから、すらすらと解いていった
「…っくしゅ」
「あ、さみぃ?」
「や、別にだいじょう…はっくしゅんっ」
来た当初はあんなにも涼しいと感じたクーラーも今は少しだけ肌寒い。アツヤがリモコンをいじって、温度を上げてくれたけど、それでも腕には鳥肌が立っていた
「切る?」
「いいよ、大丈夫。完全に切っちゃうと蒸し暑いでしょ。士郎くんが帰ってきた時にも涼しい方がいいだろうし」
私がそう言うと、アツヤは少し不服そうな顔をして、持っていたシャーペンを机に置いた。そのまま、向かい合わせに座っている私の隣まで来て、どかっと座った
「アツヤ?」
「…兄貴は今、関係ねぇだろ」
アツヤはぼそりと呟いてから、おもむろに自分のマフラーに手をかける
そういえば、クーラーが効いていたからか、アツヤはずっとマフラーをしていた。大抵夏は外しているのに
「アツ…わ、」
アツヤの首から外されたふわふわのマフラーが私の首にかけられる。あったかいというよりも肌触りが気持ちいい
「これでいくらかマシにな…っへっくしゅ!」
「……………」
見事にくしゃみを炸裂されたアツヤは場が悪そうに視線を逸らした。今まで首を覆っていたものがいきなり無くなったのだから、寒く感じてしまうのは当たり前だろう
私はアツヤによって巻かれたばかりのマフラーを解いて、片側をアツヤにかけた
「これでいくらかマシになっただろー」
「…うっせぇ」
アツヤの方を見て笑うと、少しだけ紅い顔をしたアツヤはぷいっと顔を背けた
お互いに肩を寄せ合うようにして、ひとつのマフラーにくるまる。これだけマフラーを長く編んでくれた吹雪ママに感謝だ
「アツヤ」
「…何だよ」
「マフラー、ありがとね」
未だにアツヤは不服そうだったけど
「どーいたしまして」
そう言ったアツヤは嬉しそうに笑っていたので良しとする
効きすぎた冷房に感謝
(うわぁ、入りづら…。どうしよう、円堂達も帰っちゃったしなぁ…でも邪魔するのもなぁ……全く…手間のかかる弟なんだから)
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堕落ヒーローのそあさんに、5000打フリリクで「アツヤのマフラーにくるまれるお話」というリクエストを書いていただきました!
無自覚アツヤの破壊力がはんぱないです(´///`)
アツヤのマフラーってふかふかで気持ちいいんだろうなあ……ハッ いけないいけない、願望が表に出てきてしまった 笑
そあさん、素敵なお話をありがとうございました!
2011.8.28