以前は待つより待たせることの方が多かった。
待ち合わせ場所の公園に設置されている小さなベンチに座り、炎山は何気なく時計を見た。
約束より30分は過ぎている。
今日は学校の行事やらで遅くなると事前に聞いといて正解だったと、ちらりちらり星が覗く空を仰いだ。
無駄に騒ぎ立てるアイツの相手をするのは嫌いではないのだが、遅くなった訳を追求する度に噛みつかれてはかなわない。



「おーっす。待った?」
「待ってない」
「まーた、そんなこと言ってさぁ」
「…少しだけな」
「あはは、ごめんごめん」




慌ただしく走り、笑いながら深く息を吸う熱斗に肩を竦めてみせて立ち上がる。
足を進めれば自然と横に並んで歩きだす熱斗。それが当たり前だと思ってしまっているのだから何というか、昔の俺ならばさぞかし複雑な心境だっただろう。
相手への気持ちに気付くのも億劫だった子どもだから、しょうがないだろうか。当の俺はとっくに諦めた。
何分気が楽だ。
それもこれも全部コイツが源だというのだから本当に笑える。




「聞いていなかったが何処か行きたい場所があるのか」



このまま行くと、お前を家に送り届けるだけになるぞ。
歳をとり自分より幾らか低くなった背を見下ろす。それに、あー、うーん等と生返事をした熱斗は2〜3歩足を進め立ち止まった。




「特にないんだよなー」
「ないのか」




意外そうな口振りの炎山に熱斗は苦笑しながら振り返った。
そして大股で1歩、炎山に近寄り半ば強引に手を握る。




「遠くに、近くでも何処でもいいんだ。でも、これといって行きたい場所なんてない。…ただ一緒に歩きたいだけだって」




最初から最後まで軽やかに熱斗は言う。
昔、見せた恥じらいの顔はそこにはない。あるのは純粋に自信と無邪気な優しさだけだ。

跳ねっ癖のある髪を撫でる。
いや、半分前言撤回しよう。
俺に対しての発言は何とも思わなくなったようだが、この男はこんな行動一つ一つには免疫がないらしい。
俯く赤い耳に指先を滑らせる。




「可愛いやつだ」




つい口を出た声に、いつも異常に反応した熱斗は勢いよく炎山を見据えた。
男に可愛いは嫌だったのか微妙に歪めた口を伸ばして放す。
ついでに、ぽんぽんと頭を叩いてやれば結構な力で腕を引かれ無理矢理歩かされる。
不機嫌そうにそっぽを向きつつ、絡めてくる指に緩く応えてやりながら肌を撫でた寒さに、もう夏も終わりかと炎山は目を細めた。


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ターンアプローチの回向すいさんから戴きました、夏の夜に散歩する炎熱です!
少し大人になった二人と、夏の夜の雰囲気が絶妙に合っていて、温かみの中に切なさのようなものが見え隠れするのがなんとも言えません……(´ω`)
そして相変わらず照れ屋な熱斗くんがとても可愛いです!

すいさん、素敵なお話をありがとうございました^^


2011.10.16


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