「君を僕にください」

沢田綱吉の手を両手で握りしめていた。
僕なりの告白であったのだ。
沢田はにこりと無邪気に微笑んで一言、「いやだ」 と突き放した。

「俺と骸は違う人間だから、一つの存在にはなれない。だから俺をあげるなんてできないよ」

そうだ。
僕のよく知る沢田綱吉は、こういう人間なのだ。

「妙なところで凝り性で、妙なところで現実的で、かと思えば空想癖もある。掴みきれない人間ですよね、君って」

不平を言いながら、しかし声色が明るいのが自分でもわかった。僕の中の沢田綱吉と、目の前の沢田綱吉が一致することに安堵している。握りしめた手の平に傷痕があった。紛れも無く沢田綱吉だった。なおさらほっとする。
すると、沢田は僕の手を振り払って、

「俺を完璧に理解しようとしたって、そんなの無理だよ。他人なんだから」

と冷たく言い放った。
僕の手から案山子が再び落下していくような心持ちがした。僕の思考を拒絶する絶妙のタイミングであった。
急に目の前の人が知らない人間であるように思えてくる。気分が下降した。
僕の不機嫌を見計らったように、今度は沢田が僕を包み込んだ。僅かに僕より小さいその体で、僕を抱きしめる。――目の前の人間は沢田綱吉ではないと一瞬でも思ったのに、この温もりはどうしたって沢田綱吉のものだった。わけがわからなくなる。
「でも、他人だから、一緒にいたいと思うのかな。骸が何考えてるか知りたいし、できれば一番の理解者でありたい。好きなんだ、骸が。友達としてよりも、もっと。友達はおんなじベッドで眠らないだろ。分かれよな、言いたいこと」

優しい言葉を吐く。紛れも無く沢田綱吉の性格だった。だけれど沢田綱吉でないと感じたのも嘘ではない――。
僕の期待する沢田綱吉なんてどこにも存在しないのかもしれない。不意にそんなことを思った。
僕が僕自身の内で作り上げた人間、僕の理解の範疇に収まる人間、僕が知っている程度の人間を、沢田綱吉という人に当て嵌めて押し付けているだけなのかもしれない。

「知りたいよ。骸のことを、もっと。俺のことも知ってくれたら、嬉しい。まあようするに……好きだよってこと」

僕は僕の内にいる沢田綱吉を好きでいる。沢田綱吉も彼の内にいる僕を好きでいる。目の前にいる存在から情報を継ぎ足し継ぎ足し、自らの内にいるひとを形成していくのだ。そうすることでしか、他人を好きになんてなれない。だけれど、違う人間だからこそ、好きになれるのだ。

「君と僕の思考が一つになってしまったら、そりゃあつまらないことでしょうね。君がいなくなるのはつまらない」
「そうだろ?」
「計り知れない君だから、好きなんです」
「……もう一回言って」

僕を抱きしめる沢田綱吉が僕とは違う肉体をもって、確かにこの世界に存在しているということが、今は何より僕をしあわせにする。

「好きです。だから、ずっと君の側に居させてください」

僕はそれだけを望む。



2012.12.9