「骸の欲しいものはなに」

沢田が、僕の右手を恭しく両手で包んで、甲を額に宛てた。声がいつもよりさらに柔らかい。声変わりは終わりかけているらしく、随分と低い声を聞くようになった。彼のコンプレックスであった身長すら、出会った頃よりも十センチ以上背が伸びたことにより、もう気にならないらしい。
僕たちはベッドを共有するような関係であるにもかかわらず、付き合いを裏付けるような言葉を交わしたことはなかった。なんの契りも結んでいない以上、彼は僕のものではない。
――君がほしいなあ。
心の中で、ため息まじりに呟いた。
もし本当に言葉にすることができたら、僕はこの人を手に入れることができるのだろうか。僕が願えば、承諾してくれるのだろうか。
沢田は僕を見、目尻を下げた。言ってもいいよと暗に言われているような気がした。だから、

「君をください」

僕は、こう答えた。