JK骸ツナ彼にフラれてすぐに感じたのは、「なんで眉毛の整え方も知らない奴に負けたのか」という現実の甚だしい理不尽さである。 六道骸高校生2年生、性別は女子。人生で初めて挫折した。 かっこいい男はアクセサリーに近い。自分のステータス向上のマストアイテムなのだと思う。 飽きたら次を探せばいいし、近づいてくる男はみんな僕の外見が好きなのだろうから、僕も相手の外見だけを見る。性格はどうでもいい。 3年生のある男子生徒はなかなかの美人だった。次に彼氏にするなら彼がいいと思った。 それから、あれやこれやの手段を使って彼に近付き、ついに告白の段階にまで来た。 僕に告白させるなんてさすがはなかなかの美人ですね、なんて余裕の態度は、悲しいことに長くは続かなかったのである。 「ディーノ、僕と付き合いませんか?」 「……すまねえな。今片思い中なんだ、オレ」 話を聞くと、僕のクラスメイトの沢田綱吉という女子に恋をしているという。 ここで生じる疑問としては、なぜ学年の違う彼が沢田綱吉を知っているのか、そして 「沢田綱吉って、あのイモ女ですか?」 「いや、ツナのはイモっぽいというより、なんていうんだ、垢抜けてないに近いな!」 「それをイモっぽいというんじゃないですかね……」 彼と会話しながら、僕は沢田綱吉を思い出していた。正直に言うと、彼女との接触は皆無である。話したことはもちろん、目を合わせたことすらないに違いない。ただ、眉毛が気に食わないのでそこだけ印象が強かった。 眉毛の整え方も知らない彼女に負けたのは僕にとって芳しくない。僕のステータス向上をそんな奴に妨げられてしまったなんて、それこそステータスに関わる。せめて沢田綱吉でなければよかったのだ。彼女だから芳しくないのだ。ステータスが……。 「おい、六道。大丈夫か?顔色悪いぞ」 ハッと顔を上げると、ディーノが心配そうに覗き込んでいた。 「大丈夫です僕なら大丈夫です、何てったって完全無欠が取り柄ですから、ええ。それでは」 足元が覚束ない気がする。よくわからない。ただ、無性に、腹が立っている。沢田綱吉に。 教室に帰って、女子を一通り見回す。 一回り大きめのセーターを羽織り、膝上15センチのスカート。寝癖の付いた栗色の髪は地毛なのか?胸はない。脚は細い。全体的に肉付きの悪い体。貧相。そして眉毛。沢田綱吉だ。 (あいっかわらずはえっぱなしですねー) 友達たちとへらへら笑っている沢田綱吉を見ていると、また腹が立ってきた。なんの色気もないくせに、男はあんなのがいいのか……。 着席してもなお、頬杖をついて沢田綱吉を睨みつけた。 (色気はない。ないが……、いや、よく見てみると、かなり可愛いじゃないか。僕のほうがずっと綺麗ですけど、小動物みたいで、困ったように笑うんですね、君は) ディーノはこういう小さくて可愛らしい子がタイプだったのだろうな、とこじつけて、彼女から視線を逸らした。 どうやったって沢田綱吉みたいにはなれない。残念ながらディーノは諦めるしかないようだ。 (しかし、かわいい友達は、ステータス向上に繋がるし、沢田と友達になるのも悪くないかもしれない。眉毛もきれいにしてあげて、髪もかわいくセットして、洋服も選んであげたい。今よりずっとかわいくなって、二人で街を歩いて、みんなが振り返) 「って、何考えてるんだ僕は!!」 机を叩いて叫んだ僕に、クラスメイトは振り向く。 沢田綱吉の視線もあった。 ――初めて目が合った。にこっと可愛らしく笑った。 悔しいけれど、少し、嬉しかった。 2012.4.9 某さんに捧げます |