就職難のこの御時世に大学生になってしまったことが、私にとって人生最大の不幸だと思う。

「ハルは神様に見捨てられたんでしょうか……」
「ま、まあ何とかなるって」
「ツナさんは大学卒業したらイタリアに行って永久就職先が決まってるからそんなことが言えるんですうー! 四回生にもなって就職先未定なんてこんなのあんまりです……神様はなんてデストロイ……」
「ハルなら大丈夫だよ」

私は彼の楽天的な考え方に、どうしてだろう、不快にならなかった。他の人間に同じことを言われたら絶対に「あなたに何が分かるんですか!」と噛み付くところだ。
やはり、まだ惹かれているから、だろうか。彼は私の初恋の人だった。

「ツナさんは、昔は、そんな楽天家じゃありませんでしたよ」

拗ねるような言い方になった。彼は私の頭を優しく撫でてくれる。彼は苦笑しながら「友達の影響かもなあ」と言った。

大学の昼休みにこんなを話をした。
何と無くだけれど、彼の大切な人はもう彼の側にはいないのだろうと気づいていた。それなのに、彼はまだその人のことを想っている。だから彼は一人で暮らしている。
――私に勝ち目なんてどこにも無かった。私の恋は十四歳の頃から一歩も進んでいない。
正真正銘の失恋を悟った。私の最大の不幸は、彼が好きになったその人と同じ時代に生まれてきたことなのかもしれない。

「いつ日本を出るんですか?」
「大学出たらすぐに」
「就任するのはまだ先なのに、ですか」
「いろいろ勉強しなきゃいけないからさ」
別に、今日が別れの日という訳ではないのに、私は言いたいことを総て、吐き出して仕舞いたかった。

「今までありがとうございました! ハルは、ツナさんと過ごした八年間を忘れません!」

彼は、にこっと笑って、「ありがとう」といった。

その晩、久しぶりに京子ちゃんとケーキを山ほど食べた。太るかも、なんてことはまったく考えなかった。その日だけは、人生何とかなるもんだって信じていい気がしたのだ。