リボーンに聞いてみたくなった。

「あの時計、結局どうしたんだ?」

そこら辺の箪笥に入ってるゾと答えが帰ってくると思ったのに、リボーンは「知らない」と言った。

「知らないなんておかしい。あれはリボーンが没収したんじゃないか」
「知らんもんは知らん。なくした」
「骸が持ってたって言ったら?」
「同じようなのはよくあるだろ」
「リボーンが骸に渡したんだろ」
「……すまん」

白状するときはあまりに素直だった。
骸から情報を聞き出すのに、彼は俺の私物を要求してきた、だから渡した、と。

「で、骸に聞いた情報って、何なの」
「こういう時だけボス面かよ、ツナ」

別にボス面をしたい訳ではなかったけれど、「仮にも十代目だから」と答えた。俺は今、大学に通いながらマフィア修業をしている。正式に就任するのは二十五歳なので、まだ、遠い話ではあるが。

「本来ならお前の目覚まし時計一個で片付くような問題じゃねえんだよ。あいつが時計で良いって言うからそれで済んだから助かったが……」
「骸に危険なことをさせてるんじゃないよな」
「あいつが勝手に動いてるんだよ。近頃、新興マフィアが手を組みはじめた。それが厄介でな、新しい奴らだから顔も所在も知れてない。もしかするとボンゴレにもスパイがいる可能性だってあるぞ」
「骸は知ってたんだ?」
「スパイはまだ見つかっていないが俺も怪しいとは思う。よくあることだからな」

リボーンはよくある話だと言うけれど、スパイ活動なんかが頻繁にあって良いわけがない。二十五歳になったら、こんな常識の通じない人間ばかりを相手にするんだと思うと胃が痛んだ。そして、もう骸はこんな世界で生きているんだと思うと、この前までの平和な毎日が急に嘘に思えた。
――いつもへらへらと笑ってるのに、あいつ、何やってんだよ。いつ海外に行ってるんだよ。死ぬつもりか。まだ二十歳にもまってないしお酒も飲めないのに……。どうしてそんなに遠くに行ってしまうんだろう。

「骸って何やってるの」
「言えない」
「俺、ボスなのに」
「骸が教えないから俺にも分からない」

彼のことを何も知らないんだと思うと少し落ち込んだから、いますぐ彼に抱き付きたくなった。大丈夫、大丈夫、僕はここにいますから――そう言って頭を撫でてほしい気分だった。
それなのにリボーンは更に追い討ちをかけるようなことを言う。

「なあ、あいつの野望を覚えてるか」
「世界征服」
「もしまだ諦めてなかったとしたら」
「それはない」
「どうする?」
「嘘だろ?」
「分からん」
「なんで、いまさらそんなこと」

本当に“今更”だった。マフィアに成り下がること確実の俺とそれなりに上手くやってるくせに、今更、憎いとか殺すとか言われても――俺の方が困る。

「骸がスパイだったりしてな」
「骸は、そんなことしないよ」

涙声になった。




鼻水を啜りながら骸のアパートに向かった。
呼び鈴を連打して鳴らして、「なんですか、煩いですよ」といつもの調子で彼が出て来たものだから、塞きを切って涙が溢れた。
鼻水を垂らしながら抱き着いた俺の背中を軽く叩いてくれた。嗚咽で喉が狂いそうだった。
わあわあと玄関先で泣きわめく俺の頭をくしゃくしゃと撫でて骸は言う。

「大丈夫ですよ、落ち着きなさい。僕がいますから」

そうだ。この人が、スパイであるはずがない。