「いつかあなたにも必要になると思うから。ツナ、後悔しないようにね」

十五歳の誕生日、ビアンキからプレゼントをもらった。彼女の趣味にしては地味な水色の賽子型時計だった。

「これ、ビアンキから?」
「私からというより、私の知人から。あなたが一人で起きられるように。その苦しみに耐えられるように。ツナの幸せを祈った人からの贈り物よ」
「でも、これ、動かないよ」

ビアンキは微笑んで、俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。

「いつか、あなたにも分かるわ」




十八歳になった俺は部屋でごろごろとくつろぎながら、引き出しから出て来た懐かしい時計をいじっていた。とくに仕掛けも無く、どこにでもあるような液晶の目覚まし時計である。三年前に貰っただけあってデザインは古い。
結局一度も動くことはなかった。けれどもプレゼントだから捨てる訳にもいかず、引き出しにしまい込んでいた――のだが、今、時計はきちんと時を刻んでいる。




目覚まし時計をセットしたその日は幸せな夢を見た。
春。草原でうたた寝をする夢だった。暖かくて、柔らかくて、幸せの匂いがした。

だからだ。

「ぅおらア馬鹿ツナー!!耳まで腐ったかこのダメ助!」

という家庭教師の罵声で目覚めることになったのは。
せっかく目覚まし時計をセットしたのに、リボーン曰く“鳴らなかった”。
ちゃんと時間は合わせたし、アラームもセットしたのに、鳴らないなんて不思議だ。

「こんな役に立たん目覚ましは没収!」

というわけで、その目覚まし時計は復活1日目で再びお蔵入りしてしまった。あれはプレゼントだったんだと言うと、代わりにリボーンが新しい目覚まし時計をくれた。
だけど、別の目覚まし時計ではあんな夢は見れなかった。