私のしるしをそっと残した



「あのさ、リボーン。骸のこと、知りたいんだ。知ってること教えてくれよ」
朝が来たときには、骸はすでに消えていた。……あのあと、ちゃんと眠れただろうか?
「オレはなんにも知らねえぞ。お前の方が知ってるんじゃないのか?仲も良いみたいだしな」
ぎくっとした。隠していたわけではなくても、まさか知られているとは思わなかったのだ。
「違う、俺、骸のこと全然知らない。あいつがどうして世界を憎いと思ってるのかも、詳しくは知らない……。リボーンなら知ってると思って」
「骸の過去か?」
頷いた。
骸が身内に頼れないとなると、何か黒曜の面子に隠したいことがあるはずなのだ。彼らの関わりは、過去――エストラーネオファミリーに所属していたころから始まると聞いた。そこからの、なにかが、今の骸を苦しめているのだと思った。
「それならオレより本人に聞けばいい」
「無理だよ!教えてくれないって!」
「でもお前のところに来た」
「だけど……」
「ファミリーが困ってるなら助けてやれ。ボスだろ?」
「骸は望んでないかもしれない」
「お前が決めればいい」
リボーンはハンモックから、俺に何かを投げて寄越した。片手で掴めたそれは、銃弾だった。
「それは、干渉弾っていう。自分に打って、他人の内側に入り込んで、あれこれ干渉できるって効能だゾ」
「な、なんてマフィアな……」
「ジャンニーニが試作を寄越してきた。ちょうど実験を頼まれてたところだからな、お前が使え」
骸の内側――過去を知って、俺に何ができるんだろう。でも、なにも知らないまま、骸を放っておくのも嫌だ。
「わかった。使う」
「まあ、頑張れよ」
リボーンから応援を貰えると思っていなかったので、目を丸くした。


発砲には慣れない。打たれるのは慣れてしまったけれど、自分が引き金を引くというのは、どう考えても不釣り合いな行為にしか思えない。
ぎこちない動きになった。
だからだろうか?
広大な闇の中に一人ぼっちなのは。
「おおお俺間違って変なとこに打っちゃったのかな俺死んだんじゃないよね助けてリボーン!!」
よくよく考えて見れば、打ったあとにどうしたらいいかとか、どうやって骸に干渉するのかとか、何も聞いてなかったし考えていなかったことに気づく。
「骸のところに連れてってくださいお願いしますー!!じゃなかったら帰してくださいー!!」
闇に向かって叫んだ。反響もしない。前後不覚。目眩がしそうだ。
クラクラしてきてしゃがみ込もうとしたとき、突然、床が抜けた。
「どぅふおおぁあああああいいいやあああああ??!」
落下していく最中、闇のなかで煌めくものを見た。無数に、星のように浮遊している。
ガツン!と、その星のひとつにぶつかった。「いたあっ」と間抜けな声が出たが、聴いてる人は誰もいないから構わない。
「や、やっと止まった……」
ぶつけた額をさすりながら、辺り一面を見回す。そこらじゅうに星が漂っている。上も下も、横もないみたいだ。無重力空間みたいに、どこへでもいける。
ぶつかったその煌めきは、冷えた鉄のように冷たかった。両手で包んでもあまるくらいの大きさで、透き通った岩のような見た目。きらきらと光を放っていた。
何となくの直感で、これが「骸」なのだと理解した。
冷たくて、脆そうで、でこぼこの表面、内側で乱反射する光。
「骸らしいや」
口元が緩んでいるのがわかった。やっぱり見ている人はいないから構わない。
手に持っているそれと額をくっつけ合わせてみた。なにか起こるかもしれないと目を伏せて期待してみた。
キーンという耳鳴りが遠くから聞こえてきた。音がだんだんと近づくうちに気持ち悪くなる。目をそっと開き、驚愕で見開く。息が止まった。
――真っ暗な世界のなにもかもが、真っ白に塗り替えられていたのだ。
気づけば、俺はベッドの上にいたし、ベッドの傍には骸が立っていた。
ほんの十数時間前と同じように。




(title:逆睫)

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