携帯のバイブ音が静かな部屋に響き渡り、ああまたかとため息をついた。


『今大丈夫?』


毎日送られてくる彼女のメールは決まって同じ文面。今メールしても大丈夫ですか。文面は同じだが絵文字はいつも違うものが使われていた。マメな彼女らしい。僕は締切で忙しいなんて事は全くない。初めの内はキチンと返信していた。


『大丈夫だ』


絵文字も顔文字もついていない素っ気ない文章だ。その文章を送ったあと、大体五分位で彼女の返信はくる。毎日の何気ない事、例えば天気だったり、○○に似てる人が歩いていただとか、今週の話のこの部分が面白かっただとか、仕事であった事など。他愛のない話を毎日のようにしていた。これで彼女が満足するなら付き合ってやろう。そんな
気持ちだった。

しかし、そんなメールを繰り返す内に『面倒くさい』という気持ちが僕の中にあった。字を打つのが面倒だ。いや、字だけではない。彼女の話は他愛のないものを簡潔に話すばかりで面白みやリアリティを求める僕にとっては読んでいてつまらないと思い始めたのだ。

それから少しして僕は毎日していた返信をしなくなった。

彼女からのメールの頻度は減っていった。初めは二、三日に一回。次は一週間に一回。その次は一ヶ月に一回になっていた。内容は元気ですか、久しぶりに会いたいです。会ったらまたメールの頻度が増えるのだろうか、面倒くさい。そう思い、全部無視した。


そして次のメールにはこう書かれていた。


『別れましょう』


絵文字も顔文字もなかった。


『分かった』


そう一言送った。


『ごめんなさい、ありがとう』


それっきり彼女のメールは送られてこなかった。


僕は何事もなかったかのように仕事を続けた。人気投票では常に上位だし、岸辺露伴のピンクダークの少年の人気は落ちることはなかった。晴れた日、取材のため杜王町をうろつく。ネタはないかとキョロキョロしていると一本の木が目に入った。


「桜、か」


そういえば彼女がメールでこんなことを言っていた。


『今日、桜の花が咲き始めていました。綺麗なピンクです。満開になったら露伴さんと一緒に見に行きたいなー、なんて』


笑う彼女の顔が浮かんだ。その時、何故か涙がこみ上げてきた。前が見えないくらいボロボロと涙が溢れ出した。次から次へと出てくる。色々な彼女の表情が浮かび上がっては消える。
僕は彼女が好きだったのか。
純粋にそう思った。僕の身勝手で失ったのだ。自業自得だ。そう、自業自得なのだ。




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