※7人目のスタンド使い夢です
ネタバレあります
「…花京院」
「なまえかい…?」
横になっていた花京院が起き上がる。傷口が開いてしまうから横になっていて欲しかったがわざわざ起き上がってくれる優しさに泣きそうになった。心配かけないように振舞う姿が逆に痛々しかった。
「すまない…これじゃあ一緒に行けないな。早く治ればいいんだが…」
「ちょっと、なんで謝るの?今は治す事優先、怪我人はこれでも食べて栄養つけなよ」
お見舞いにと持ってきたフルーツをベッドの横にそっと置く。あとで林檎の皮でも剥いてあげよう。
椅子に座り、そっと花京院の顔を引き寄せる。花京院の目には包帯がグルグルと巻かれていた。彼の包帯を指でなぞる。傷口に触れないよう、優しく。薔薇色の髪が真っ白な肌に映えており、エメラルドのような瞳が私を捕らえて離さなかった。そこら辺の女性よりも花京院は美しかった、そう思う。
だが、彼の目はもう開かないのかもしれない。あの美しいエメラルドのような瞳を拝む事はもうないのかもしれない。ゲブ神のスタンドに傷付けられた眼球からは止まる事を知らないかのように血が流れていた。そのような光景を目の当たりにしたのだ。医者も様子を見ましょうの一言で終わらせてしまった。私のスタンドが傷を治癒する事のできるものなら良かったのに。そうすれば花京院のあの綺麗な瞳をもう一度見ることができる。花京院の美しい顔を傷一つない状態に戻すことができる。
(あのとき、私がやられていればよかったのに)
『私はこの世界の者ではない』ヴィンズに言われた言葉を思い出した。だったら私が花京院の代わりになりたかった。私が花京院の代わりに目を傷つけられ、離脱することになればよかったのだ。花京院はこの世界の者。私は違う。私がいなくてもこの旅路に支障がないのならば、私が犠牲になった方がいい。
全く力になれないのが悔しかった。悔しくて悔しくて、ずっと堪えていた涙がポタリと一つこぼれ落ちた。
「なまえ、またネガティブになってるんじゃあないか?」
「なってない」
「僕に見抜けないと思うかい?大体ね、君はマイナス思考になると声がワントーン落ちるんだよ、自分の事なのに知らなかっただろう」
「そんなことない」
「なまえ、手を出して」
花京院が差し出した手に自分の手を乗せた。花京院の手は顔とは違い、男らしい大きな手だ。ギュッと握られた手、包帯越しではなく直に触る体温。彼はまだ生きている。死んでない。会話ができる。触れることができる。握る力がある。口を動かす事ができる。足を動かすことだってできる。花京院の手を握り返す。花京院も私の手を握り返す。そのとき花京院の口元が笑った気がした。
「君はいつだって僕の事を信じてくれたよね」
「仲間だからね」
「でも君の性格上、仲間だからといってそう簡単に信じようとは思わないだろう?少なくとも君はシンガポール辺りまで仲間を拒絶しているように見えた」
そこから花京院の思い出話が始まった。インド、ベナレス、カラチなど行った場所の思い出を淡々と話していく。そして会話の中にはいつも私がいた。あのときのなまえは。なまえったらそこで。なまえは。私のことを気遣ってくれているのが丸分かりだ。花京院は自分の傷の事で不安なのに。それなのに無理して笑って私のことを励まそうと、心配いらないよと気遣ってくれている。花京院は強い。私はなんて弱いのだろう。
「花京院」
「何?」
「治るよね?」
「治るよ」
「信じるからね」
「君が僕を信じないで誰が僕を信じるんだ?」
花京院の目が治るという保証はどこにもない。失明する危険性だってある。しかし、花京院本人が言っている、治ると。花京院の目が治らなければ私の目を移植したって構わない。私の瞳のライトブルーは花京院の顔だと少し浮いてしまうかもしれないが目が見えるだけいいだろう。花京院が治ると言うのだから私は治ることだけを信じればいい。医者が治療して治らなければ代わりがいる。絶対に治る。自分が犠牲になって仲間が助かるのであれば喜んで犠牲になろう。いつも消えてしまいたいと思っていた自分を必要としてくれた仲間達。いつも傍にいて支えてくれた人。その人達を失うのが一番怖いのだ。