初めに、彼の髪は美しいと思った。
彼の髪に目がいくようになった。
次に、彼の顔は整っていると思った。
彼の顔に目がいくようになった。
最後に、彼の肩の辺りに星型のアザがあるのを知った。
彼の体に目がいくようになった。

いつの間にか彼の全てを見るようになった。

しかし、私は彼の性格も血液型も誕生日も職業も知らない。
何も知らない。


「あのー、すみません」


いつも見ていた彼が話し掛けてくれた。声は予想よりも低く、男性らしさが醸し出された。


「どうかされましたか?」

「突然すみません、貴女の名前を知りたいのですが…」


私は平常心を保ちつつ、自分の名を告げた。ここで偽名を言えばよかったのかもしれない。まあ、後悔しても遅いのだけど。


「ああ、やっぱりなまえさんでしたか。よかった、探す手間が省けましたよ」


ニッコリと笑う彼の目は笑っていなかった。いつも見ていたのだからそのくらいは分かる。彼は何処から取り出したのか、薔薇の花を一本、私に差し出した。


「この花を貴女に」


差し出された花を受け取ったとき分かった。花にしては異様に重たい。彼は何か不思議な力がある。だからか。花からカチッ、カチッ、と秒刻みに音がした。


「ありがとうございます」


私が礼を告げると彼は笑って言った。


「これ以上、僕の個人情報を探られると僕の職業上困るんですよ。すみません」

「こちらこそすみません。気持ちを優先して貴方の迷惑を考えませんでした」

「貴女にも僕と同じように能力があればよかったんですがね」


ニッコリ笑う彼の表情は先程となんら変わりはなかった。
ああ、最期に彼に嫌われてしまったのはとても悲しい事だ。


「では、いつか会えたら会いましょう、なまえさん」


彼は近くのバイクで走り去った。
音が先程より早くなっている。


さよなら、名も知らぬ貴方。








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