吉良吉影という人がいる。
上司『だった』人だ。
夏、吉良さんが死んだ。
行方不明になったとき、会社から捜索願いを出した。彼は結婚している訳ではないし、兄弟もいないし、家族もいなかったらしいから。
しかし、吉良さんは見当たらなかった。
少し経ったくらいに、彼が死んだと連絡を受けた。身元が分からなかったのだが警察が調べてくれたらしい。会社では少しずつ寄付金を出し、規模は小さいが彼の葬式を行った。
その時、皆が驚いた。
顔が違ったのだ。
彼は言っていた。
『私は静かに暮らしたいだけだ』
静かに暮らしたかっただけの彼の身に何が起きたのだろうか。
葬式は静かに行われた。
彼の意思を汲み取るかのように。
外ではひぐらしが鳴いていた。