「露伴先生、今日は何処にお出かけ?」
「ちょいと近場にね」
「興味あるなぁ、ついていってもいい?」
「いいや、駄目だ」
「どうしても?」
「どうしてもだ、諦めろ」
露伴先生は不機嫌そうにスタスタと歩いていってしまった。
なぁんだ、つまらない。
今日は露伴先生と食べようと思って苺のタルトを買ってきたというのに…
しかし、駄目と言われればついて行きたくなるのが人間の性。
抜き足差し足で露伴先生の後をついて行く事にした。
「そうですか、ご協力ありがとうございます」
露伴先生はペこりと一礼し、近くのベンチに座った。
一人の男性に手渡された紙の束に目を通す姿が絵の様に綺麗だと思った事は露伴先生には内緒にしておこうと思う。
「露伴先生ー!何見てるの?」
「うわっ!?」
バサバサと音を立てて紙束が地面に散らばった。
あーあ、露伴先生ってばドジなんだから。
しゃがみ込み、紙を拾う。
「君は拾わなくていいぞ」
「いやいや、元は私のせいだから拾いますよ」
「そういう問題じゃあない、とにかく拾うのをやめろ」
「人が親切にしてるっていうのにー」
ふと、地面に落ちている紙の文字が目に入った。
『建物全焼』『放火魔』『生存者一名』『犯人逮捕』
頭痛がした。
私はこの新聞を知っている。
この記事を読んだ事がある。
下の方を見ればそこには
『生存者、なまえ』
私の名前が載っていた。
全身から嫌な汗が吹き出る。
震えが止まらない。
この事件を私は知っている。
「露、伴…せん、せ」
露伴先生は無表情で言った。
「やはり君にはまだ早かったようだな」
「露伴先生〜?その紙は何?」
「君はまだ知らなくていい事だ」
「先生ってケチですよね〜見せてくれればいいのに」
苺のタルトを食べながらヘラヘラと笑う彼女はいつも通りだった。
よかった。
先程の様子から、彼女はまだ真実を受け止められないようだ。
彼女が真実を受け入れられるようになるまで、僕が面倒を見ると決意したのは一ヶ月前。
全ては彼女の口から事件の真相を聞くためだ。
へヴンズドアーで彼女の記憶を見ればいい。
僕も初めはそう思った。
だが、事件のページが丸ごと破られていたのだ。
彼女は自分の記憶を消してまで事件を思い出したくないらしい。
実に興味がある。
リアリティを求める僕にとって彼女はいい材料だった。
なまえ。
君が思い出したくないなら、僕がいくらでも忘れさせてやる。でもな、いつかは真相を聞かせてくれ。
彼女が話す日常会話に耳を傾けつつ、苺のタルトを頬張る。
真相を聞けるのはいつのことやら。