なるほどうさんち事件勃発2!


テーブルに置いてある、甘いコーヒーを。

俺が帰ってきたとき、みぬきちゃんは電話をかけていた。
どうやら友達からかかってきたもののようで、受話器をもった彼女はひどくうれしそうに学校の話をしていて。ああ、なつかしいなあ、なんてうっかり何年か前を想像してしまう。かなり俺も年をとったなあ。としみじみ、でも音をたてないようにソファーに座りこんだ。外出先で依頼人から聞いたことを、早めにパソコンに打ち込んでまとめておかなくてはならない。殴り書きの書類をかばんからひっぱりだして、とりあえず思い出すためにもう一度みる。今度の依頼人もどうやら崖っぷちで、でも依頼人に不自然な緊張は見られなかったので俺はやっと安心した。嘘を見抜けるようになってから、こうやって確認してみるまで不安になることが多くなった。自分で、やめた方がいいよなとは思うのだが、腕輪の締め付けはそんなことには頓着しない。締め付けられるたびに、嘘をつかれていることへの悔しさとそれがわかってしまうことへの申し訳なさを感じてしまう。どこが嘘か、はもっと集中しないとわからないので、最近はあまり世界がゆがんでそれしか見えなくなるあの感覚を使ってはいない。それを使うことは所謂チートなんじゃないか。と思ったからだ。しかし、なんにしてもこの力をつかえてしまうことは精神的になんだか辛い。ぐったりとソファに身を沈めつつ、俺は傍らのテーブルにあったコーヒーを飲む。
…甘い?
おかしいな、と思ってもう一口。やはり甘い。疲れたらコーヒーも甘くなるのかな。なんて疲れた頭で一周考えをめぐらせて、
マグカップの柄に目をとめた。かわいらしいダイヤが飲み口の淵を一周するレトロなそれ。加えてあの甘さ。中身はコーヒーよりもミルクの方が幅を利かせたような色で。そういえば最初の一口目からカップの中身は半分もなかったような。そういえば猫舌用にか、微妙にぬるくて。どこをとっても。
「…みぬきちゃんのじゃないか…。」
やばいな、と思った。今でこそ友達と談笑しているが、電話が終わったらこのコーヒーのことに気づくだろう。どうしよう、最初からこれくらいだったんだ、なんてごまかそうか。でも。彼女は俺に嘘をつかれてどう思うだろうか。俺と同じように、たぶん俺より長く嘘の違和感に浸けられてきた彼女に、唯一同じ辛さを共有できるであろう彼女に。俺はこれから嘘をつく。それはもう、ほかのなによりも、たぶん俺が嘘をつかれるよりも辛い気がした。
「…うん、じゃあね。バイバイ!」
廊下の向こうでみぬきちゃんが通話を終えた音がした。結局、俺はソファに沈んだままマグカップを持ったまま、固まっていたままで。そこを、見つけられた。
「あ!オドロキさん!それ、みぬきのですよ!」
「…ご、めん。飲んじゃった。間違えてさ。」
嘘をついて逃げる方がマシだと、一瞬打ち明ける心苦しさの中で思った。みぬきちゃんが目を見開いて固まる。この顔をさせたく、なかったけれど。でも。
「また、新しいの淹れ直すからさ。ね?」
正直に言えば許してくれる気がした。そう信じた。この生活の中でなんとか身に着けたスキルだった。俺は驚いたみぬきちゃんの次の言葉を待った。許してください。昔、涙ながらに言った思い出とか、そういうのが駆け巡った。しかし、それが駆け巡り終わってもみぬきちゃんは何も言わない。…さすがに長くないか。沈黙。みぬきちゃん、と恐る恐る尋ねる。と。彼女はぽかん、とした顔をやっと変えたかと思うと、満面。笑顔に昇華させて。

「オドロキさんそれ。間接キスですね!」

「……うん。」

そうきたかよ。とか、うれしいのか。とか、全部うまく言えなくてとにかく、肯定だけした。


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6/16おどみぬの日。
またも遅刻…。
一線を越えようと頑張った結果がこの微糖っぷり。甘いコーヒーを共有する、をコンセプトに。

3日目もコーヒー

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