フルハウス


トランプが手にあった。

手に馴染んだ感覚。緊張感。視線が、表情、指先、口元、言葉、相手の目の動きまで、詳細に捉えていく。カードに添えた手を、じわりと動かして。敢えて微笑みかけて、反応を見る。椅子が重心の移動に際して僅かに軋む。薄暗い照明があちこちに影を落とす。意識を集中させる。カードは5枚。多くはない。しかし同じように見える厚紙の裏は明確に、それぞれ違う役を担っている。此方からでは相手のカードは存在しか分からず、それは此方も然り。5枚が何を意味しているかは、手に入れた人にしか分からない。表はみんな同じだというのに。裏に書かれた模様次第で、駒としての価値が変わる。それを、今自分は見抜いているのだ。手元の小刻みの動き、緩む口元。相手はよほど良いカードを持っているのだろう。ここは、余裕を醸すべきか。或いは無駄に勝負を挑まずここでは降りるべきか。しかし自分の手札もかなり、好い具合に揃っている。ここを降りるのも惜しい。
「…さて。」
その言葉の端に彼が驚いたような顔をした。まさか、勝負を挑まれようとは。という、そんな顔。これはマズいかなあ。じわり、と頭に浮かんだ不安。しかしここは所謂勝負時だ。気持ちで負けるはもってのほか。自分と自分のカードを信じて。
「ショーダウン、です。」
幕が下りる、勝敗はきらびやかな舞台の裏側へ。散らすように机に並べたカードを、自分と相手とにらめっこする。自分のが、8が3枚とJが2枚のフルハウス。そして相手が。
「スペードとダイヤとハートの7で3枚。と、ダイヤとスペードのエースで…。おや、フルハウスだ。」
そう胡散臭く言ってにやりと此方に笑みを向ける顔は、まさしく勝負師のそれだった。苦虫を噛み潰したように唇を噛むと、彼は、はっはと嘘臭く笑った。
そして。

「…あの時と一緒だよ、オドロキくん」
「……覚えてたんですか」
「僕は勝負師だからね」

それはあのとき、俺の初めての裁判の基になり、成歩堂さんの最後のパズルのピースとなった、あの一回のポーカーゲーム。その時の成歩堂さんの手札、そのままだ。ハートとダイヤとクラブの7。それからダイヤとスペードのエース。
「ここがボルハチじゃなくて良かったね」
「…そういうことを言うのは止めて下さいよ」

「でもね。
このカード達、なんとなく、フルハウスだなあって思うよ。」
「…えーと?」
「ほら。」

成歩堂さんは机に撒いた5枚を綺麗に整列させて、俺の方に向けた。彼は一つ一つ指を置いて、言う。
「クラブの7がザックさん、ハートの7はバランさんで、ダイヤの7は優美さんだ。ダイヤのエースはみぬきでスペードのエースは君だ、オドロキくん。ほら、或間敷フルハウスだ。どう?」

にっこりと笑う成歩堂さん。それは勝負師じゃなく、もっと人間味のある、子供みたいな笑顔だった。揃えられた5枚は今や別の意味を持って写る。

「…どうも、ありがとうございます。」

それだけいうので精一杯だった。


(勝負師は奇跡を手のひらに広げてみせる)



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ちょっとこじつけ臭いけどこの"或間敷フルハウス"、私は凄く好きです。
トランプゲームは奥が深いですね…。

2011.05.06

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