もう少しでも、早かったなら



死体を安置した、簡素な部屋から
オレはゆっくりと身を起こした。
久しぶりに、本当に久しぶりに
自分の体へ戻ってきた。
少し前までは仮の姿をやっていたオレだが
やはり、こちらの方が性に合うらしい。
関節を伸ばして、首を回す。
それは気持ち良いくらいに、オレが
体を手放したままのコンディションで
薄く笑うと怖いくらい様になった。
死ぬ前まではこんな自嘲顔
暫くしてなかったというのに、
運命というのはこうも残酷なものか。

「…さて、」

オレは鍵のかかっていないドアノブを回す
霊安室のしみったれた空気を部屋の中に
抑え込むようにドアを閉める。
さあ、会いに、行かなければ。
オレの足取りは慎重、しかし軽かった。

彼女の家は10階建てマンションの
3階にあった。
エレベーターをつかまえるのも億劫で
3階まで駆け上がって
彼女の部屋のインターホンを押す。
しかし何回押しても出てこない。
不審に思ってドアノブを回すと、
あっけなく、ドアは開いた。

「シセル…?」

おかしい。
久しぶりにこの姿で恋人に会える、と
心は飛び上がらんばかりだったのに、
今はこの薄暗い彼女の部屋に、
嫌な予感しかしない。

冬の日だった。
クリスマスツリーの隣に
彼女の机があった。
そこに小さな手紙を発見した。
宛名はない。慌てて封を開けた。
そこには一行、

『ヨミエルに会いにいきます』

彼女の筆跡に間違いなかった。
意識せず、声に出して読んで、
やっと意味を、理解した。
紙を持つ手が震えた。嘘だろ、
視線を紙面から上げた。
オレの目の前には夕日の入る窓。


瞬間。
窓の外を、彼女が、落下した。


間違いなかった、彼女、シセルだ。
見間違えるハズはない。
でも、見間違いであって欲しい。
だってここは3階、頭が真っ白になった。
とっさにベランダから下を見下ろす。
そこには、降ってきた白い花たちに
囲まれて、一際大きな紅が、咲いていた。


『ヨミエルに会いにいきます』


遺書であった。
屋上から飛び降りたと聞いた。
何もできなかった自分を嘆いた。
でも、
何も何も、変わりはしなかった。

おれたち
(すれ違ってなければ、良かったのに)




_____

ヨミシセ、…だよね?
なんかとんでもネタバレ及び捏造小話です
たくさんの"相棒"関係にときめいたゲームですが、ヨミエルとシセルさんも相棒、みたいな感じだったのかなあ、とか思うとこれもときめいてしまいます。あの日の前まではせめて彼ら幸せだといいな。

くっ、行ってきますじゃなくていきますだった…だと…←
失礼しまし、た…!

2010.08.23
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