くだける.2


次の日の朝はあっけないくらい簡単にやって来た。昨日被った布団はいつもみたいに寝苦しくて蹴飛ばしていたし、昨日夕飯を抜いたのにお腹は減っていなかった。昨日の続きの今日、というよりは新規作成された新しい1日だった。都合のいい自分に口角を上げる。朝起きたら王泥喜法介だった。シャワー浴びてお湯を沸かして髪を乾かしながら新聞を読んで。朝の忙しさもいつも通り。お茶を湯のみにいれてご飯にお茶漬けの素を振りかけて残りのお湯を注ぐ。お茶漬けの素は本当に神だと思う。いつもおいしい。どんなにお腹がすいてなくてもおいしい。オレの予定を気にせずにいつもおいしい。かきこんで流し込んで一息つく。歯磨きして着替えて洗濯物を干して、髪の毛纏めて家を出る。信じられないだろうけど、オレのツノは天然だ。毎日固めて作ってるわけじゃない。何故か立ってるからちょっと纏めてみているだけだ。だから思ってるほど髪に時間はかかっていない。そんなことより洗濯物干すほうが時間掛かる。敢えて昨日の泥水には触れずに玄関に鍵を掛けた。

事務所は一昨日と変わらなかった。昨日は来てないけど、だから昨日の事務所も一昨日や今日と変わらなかったのだろう。相変わらずごちゃごちゃしている。これは掃除からやらなくては、とため息をつきながら窓を開ける。雨が降りそうな空気。生温い曇り空。チャーリー先輩に水をやってから、立ち上がると。
「あれ、オドロキくん。…おはよう」
「おはようございます、」
成歩堂さんが出勤してきた。出勤という単語がかなり似合わないラフな感じだけど。なんだか凄く驚かれているんだけど。なんかガン見されてるんだけど。なんで。
「…なんで居るんだい、」
「は…?」
「いや、ぼく今日は君休むんだと思ってた」
あれ、おかしい。無視していた筈のびりびりが心臓を撃った。
「やす、む」
「や、だって昨日あんなこと言われて、傷付いてるでしょう、」
「……」
「大丈夫なの、」
大丈夫、言い慣れた一言が出せない。そういえば今日は発声練習してなかった。
「休んでいいんだよ」
「……」
「急がなくていいんだ」
「………」
「家まで送ろうか、」
「 い、いです」
「…さすが僕らの切り札だよ、」
「え、」
「……ごめんね、」
痛い、心臓びりびりする。切り札、とか。ど、ういうこと。

「大丈夫です」

気づいたら出てた。いつもより弱かったけどそれは発声練習がなかった所為。大丈夫、そう、大丈夫だ。お願いだから仕事をさせて。忙しくしなきゃ思い出してしまうんだ。
「オドロキくん、」
「はい、」
「ぼくらはきみを信じてるから」
「えっ」
「…説得力ないかな、」
「そん、な、こと、」
「大丈夫だよ、きみは…多分」
成歩堂さんはそう言って笑う。オレには理解できない。
「みぬきがね、昨日のきみは変だった、って何回も言うんだよ。絶対しばらく休みをあげるべきだよって、だからみそラーメンは二人で行こうって。」
気づかれていたのにも、気づかなかった。
「…まあ、まだ屋台が帰ってきてなかったから、結局、食べられなかったんだけど。」
そうやって嘘っぽく笑う成歩堂さん。オレはぐ、と腹に力を込める。そうでもしなきゃ表の天気さながら、今にも泣きそうだった。
「そんな、簡単に、信じるとか、」
言うなよ。零した言葉に、成歩堂さんはオレの頭をわしわし撫でて、笑った。まるで(会ったことないのに)お父さんにそうされた気分で、オレはなんというか、…困った。でもなんとなく手をどける気にはなれなくて、纏めた前髪がほつれるのも、そのままにした。ちょっとだけ鬱陶しくて、でもふかふかする心地にオレは、


(この場所と人は壁に寄り添う)


_____

何がくだけたのかは色々、というアレ。
ちょっとオドロキくんを捏造解釈し過ぎた気がする、いつもはもっと強いと思います。前向きな子なんだと思うんだけど、ううん、これは書く人が頑張らなければ…。

2010.08.15


back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -