くだける。


わたしの、イチバンの失敗は‥‥
あなたに依頼したことよ。弁護士さん。
わたし。信じてたのよ‥‥
アナタのこと。
このヒトなら、まちがいなく‥‥
滝太クンを有罪にしてくれるって。


それはじわじわと、心に刺さっていった。公判を終えてから、広がっていく、何かびりびりとする痛み。みぬきちゃんと帰り道で話をしながら、頭の中ではずっと別のことを考えていた。
あの時の最後の一言。悪あがきだと、そういう意味に取ればそれだけ。でも、それだけじゃないから今こんなに心臓がびりびりしている。動揺。体の真ん中が動揺しているのは流石にみぬきちゃんにも悟られないだろうか。悟られないといいな、とオレは珍しくも期待をする。ちょっとだけ腕輪がきつかった。

みぬきちゃんと別れて、オレは重い鞄と重い身体を引きずって家に戻った。蒸し暑い空気。季節は梅雨を迎えようとしている。部屋に籠もる湿気が気持ち悪い。けれど敢えて窓を開ける気にもならなかった。とにかくじっとしていたい。水を一杯だけ飲んでコップを洗う。のろのろとスーツを脱いでTシャツに袖を通す。洗濯物だけ籠に放り来んで布団を被った。何も胃に入れたくない。もう眠ってしまいたい。でもめちゃくちゃに声を出したい。今すぐ誰かに電話を入れたい。気持ち悪い。心臓がびりびりする。何をしていいか、分からなくなる。
「大丈夫です」
大丈夫な訳ない、でももう嫌だというよりマシ。大丈夫です。そうべつに死ぬ訳じゃない。一食抜いたって、嫌みを言われたって、今日くらい早く寝たって、死ぬ訳じゃない。大丈夫です。でもその大丈夫って随分貧乏な大丈夫じゃないかと思えた。
多分だけど、王泥喜法介としていきられる、そういう視点で見ると、オレのびりびりは確実に致命傷だった。良くないことばっかり浮かんで、オレはもれなく沈んでいく。王泥喜法介は死んでいく。

小さい時から、その手のダメージには慣れていた筈だった。何されようが何回だって立ち上がって大丈夫だと告げるそれが王泥喜法介。それが今こんな一言で死ぬなんてしみじみ年を感じる。信じられたい、子供じゃないのにそんな欲求が体や心を支配していく。びりびり。持ちこたえる為に布団をもっときつく被った。蒸し暑い水底。息すら熱い。
オレは人を信じる。人はオレを信じる。どちらも機能していない。お母さん、先生、成歩堂さん。オレが建設した信頼関係はいつも強度不足で。弁護士として、建設のテクを学ぼうとしたけど今更それは才能に依るところだと知って。極めつけはあの言葉だ。愚痴も出る。出すキャラじゃないのになあ。でも出ちゃうんだよなあ、ああ、今のオレは王泥喜法介じゃない。
明日の朝までに戻っていられるかな。明日には王泥喜法介で居なきゃいけない。辛くはない。別に王泥喜法介で居るのは嫌じゃない。でも今日はこのまま沈みきっていたい。ずるずると睡魔に引きずられながらオレは泥水の中で意識を手放した。



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