狭い世界が揺れて


電車に乗った。
オレは元来自転車派なので、車の免許なんか持っていないからだ。そういうことだ。

オレはホームに滑り込んで来た電車に乗り込んだ。出て行く人が優先。それから、入る人。流れ込むように人が車両の中に吸い込まれていく。オレも吸い込まれる。
車両内は冷房の音がしていた。壊れかけたみたいなごうごうという。でも全然涼しくない。人がたくさんいるから、多分当然冷房の効きも悪いんだろう。オレは軽くオデコの汗を拭う。暑い。座席を見渡したが見事に埋まっていて、仕方ないしオレは若いからドアの近くに立った。とりあえず居場所をみつけて落ち着く。
しかし一息つく間もなく電車はゆっくりと滑り出す。景色が流れていく。僅かに車内が揺れたので、手を延ばそうとした。が、オレの何の立った地点の真上には何もなかった。吊革に延ばそうとした手を引っ込めて、鞄を反対側の手に持ち直す。痺れた片方の手が革の取っ手から解放される。空になった手を握ったり空けたりする。おお解放感。まあもちろん反対側の手も漏れなく痺れていくからあまり安堵しても意味はないんだけど。オレとたくさんの人を乗せた車両の中で、小さく身を捩りながら、オレは電車の中でじっとしていた。
ごうごうと冷房の音、それぞれにケータイをつつく乗車人達、別に彼らと接触してるわけじゃないのに息苦しい感じ。やっぱりオレ自転車派だな。痺れる両腕とさまよう目線を持て余して、オレは目を伏せた。


(オレはここには向いてない)(それでも)


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電車とオドロキくんの話。彼と電車って変に似合う気がします。
実際、弁護士の世界は新米には厳しい世界だそう、ですね。頑張れ王泥喜くん。

2010.07.21


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