今を満たすだけの甘さ

ゆっくりとソファーから起き上がった。

上体を持ち上げた瞬間に軽い目眩を覚えた。少しの間、動くことが叶わずにじっとそのままの体制で目を閉じる。血液が、きちんと体を回るようになるまで、ぼくは動かない。頭の先の血が降下する。
やっと目を開いて、今度こそ立ち上がった。寝過ぎてふらついた体が水分を求めている。素足で音を立てながら冷蔵庫の前までゆっくりとテンポを取って歩む。速度記号はラルゴ、あるいはスローリィ。冷蔵庫の扉を開けて、冷気を浴びながらグレープジュースのボトルを掴む。寸胴のグラスに注いでから、瓶の冷たさに頬を寄せた。
澄んだ紫色を前にぼくはクッキーやマカロンの詰め合わせを棚から取り出して小袋を破る。貰い物のそれはいかにもティータイムのお供に、といった具合の乾燥っぷりで、ぼくはもう一杯グレープジュースをグラスに注ぐ。時間帯なんか関係ない。食べ合わせも関係ない。体が空腹で、水分を欲しているから、ぼくはそれを摂取しているだけなのだ。
クッキーの甘さがパキンと口内で割れる。こんな食生活では、10年先、15年先、どんな生活習慣病にかかっていることだろう。考えると正直怖い。
そうでなくても太るという手っ取り早い罰みたいな事象がぼくを待っているのに。だってぼくはもう若くない。気合いばかりでなんとかなる年じゃないのだから。
クッキーを咀嚼してグレープジュースで流し込む。甘いのか酸っぱいのか、あまり良い後味じゃない。でも良いのだ。この後味に意味はない。
今、腹を満たし、水分を取って、命をつないでいる、それだけが重要なことで、他に意味は要らない。甘すぎるクッキーにも、乾いたマカロンにも、味気のないグレープジュースにも意味はない。
だから、ぼくが寝ているうちに流れた涙の跡にも、意味はないのだ。


(甘んじられていれば良かったのに。未来は、過去は、今に意味をつけるから)



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だるほどくんのデフォルトをちょっとくらい感じにしてみようと思ったらまさかの暗さ。ちょっとじゃない、よ。
ねがてぃぶ曜日に書くんじゃなかったなあ←
お菓子の詰め合わせは御剣検事から?

2010.06.06


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