久しぶりに榊の部屋に行った。

僕が部屋のドアを開けると彼は革張りの黒い椅子に背を預けて、ガラスの向こう側を見ていた所だった。他には誰もいない。ドアから彼のデスクまでは何故かとても間隔があってそのデスクにも背を向けて、彼は空を見上げていた。僕が何か言おうと口を開こうとすると椅子が半回転した。頭まで全部背もたれのある、黒光りのする椅子。シンプルだが、毅然としていて、何も知らない僕にもそれは高いと思わせた。しかもそれは部屋と調和していて一つの空間の雰囲気を醸すのに充分な存在感を放っている。敷き込まれた毛の長い絨毯、部屋の隅の細い葉の観葉植物、壁に掛かった空と飛行船の絵。それらは見事に調和して彼の部屋を作り上げている。そして、椅子に背を預ける彼。それは皮の黒と部屋の気高さに完璧に一つになっていて。彼にしか合わない部屋だなあとか、彼がいないと成立しない部屋だなあとか、色んなことを考えさせた。
「椅子の人、っていうんだよね、」
こういうの。というと彼は片眉を上げた。椅子と一緒になったみたいな、威厳と緊迫とを兼ね備える人。まるで彼の椅子が彼自身みたいな。椅子の人はヒビのはいった眉間を指で揉む。全く勘弁してくれ、という。それと共に椅子の背も彼の背に押されて音もなく後退する。なんと正に椅子と一体の動き。
「椅子の人、」
彼は溜め息を長くついてこちらを見た。爪先が一瞬痺れて、僕は赤い裾を握る。
「どういう意味だ、」
彼の低い声が部屋の空気を揺らす。彼の空気が僕に纏う。不思議な感じだ。そんなはずはないのに、この部屋の雰囲気は黒。あるいは酸化した紅。そこには湖の底のようなゆっくりとした蠢きが確かに存在している。ああ、呑み込まれる。
彼は僕に手招きをする。その動作に吸い寄せられるみたいに僕は彼の隣に歩み寄る。僕は彼の隣に立って、机に目を落とす。彼はそんな僕の視線を無理やり自分の方に向けて、悪人顔の似合うその容姿をつり上げて、囁いた。
「私はお前にもこの椅子が似合うと思うがな、」


Chairperson
(組織に据えられた大きな椅子)


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長いこと構想してました、榊赤です。
ボスと椅子とはあめこの中では切っても切れない感じです。その上椅子と一緒だと怪しさ1.5倍上乗せ。砂パみたいなね。
ちなみにchairpersonの本当の意味は議長です。残念ながら←

2010.07.11
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