久しぶりにレッドが帰ってきた。前見たみたいに肩にピカチュウを乗っけて、赤い帽子を被って。なんで、と問い詰めると買いだめが尽きたから補充に来たなんて色気もへったくれもない理由をさらりと吐いた。でも久しぶりに会えて俺は充分嬉しかったのでそこには怒らないでおく。二人で話をして、おばさんにも顔見せとけよ、と釘を刺したが、彼はウチに泊まっていった。まあそれはそれで良いんだけども。しかし、やはり彼は誰かが自分を超えない限りあの山に籠もることを止めないらしく、一泊したらすぐにシロガネ山に帰る、なんて言う。止められないのに、中途半端に説得を試みたりもしたりした。結局、シロガネ山に"帰る"なんて言うな、としか諭せなかったが。その頃には時間はとっくに夕方だった。
「そろそろ帰ら…行かなきゃ、」
レッドが赤い空とその下に聳えるシロガネ山を見上げながら、独り言みたいに呟いた。確かに早く行かなければ、夜の山は想像以上に脅威だ。俺もその律儀な独り言に、同じように空を見上げながら小さく返事をした。すると不意に、レッドが後ろを向いて、あ、と声を上げた。彼はそのまま手を頭に回す。
「何やってんだ?」
「め、」
はあ?と語尾を上げて意味を尋ねたが、彼は地面を見つめて何も言わない。良く分からないので俺も後ろを向いて手を頭に回して地面を見た。
「あ、」
地面には黒い目の影が2つ、ゆらりと伸びていた。腕で形を作って、頭は黒目だ。口も鼻もないけど、目に足が生えたのが二つ長く伸びていた。懐かしいな、と思って頭の位置を動かしていると、隣で幼なじみは手を使って目の上に突起をつけている。
「グリーン、見て、まつげ」
「おおおやばいなお前ちょっと待て俺もやる!」
「…ひじきまつげ」
「お前マジすげぇ!どうやってやんのそれ!?」
テンションが上がった。こんな風に冗談なんかなかなか言えないから。俺たちは寄り目をしたり流し目をしたり、ツリ目や、タレ目や、とにかくなんでもやった。こんな遊びでどうしてこんなに長くはしゃげるのかというぐらい。そんなことをしている内に、やる目がなくなってしまった。俺たちはただ棒立ちに突っ立った。さっきより長くなった影法師は俺たちの前に伸びている。なんだかそんなセンチメンタルな光景を見ていると、小さい頃が懐かしくなってならない。ずっと一緒にいて、なんでも二人でやっていた幼い頃。今は方や登山家(というには語弊があるが)と方やジムリーダーだ。アイツはまた山に戻って、ポケモンだけじゃなく生活自体生きるか死ぬかのバトルを昼夜問わず繰り広げるだろう。俺も俺でジムバッジの生きるか死ぬかがかかってるバトルをそれこそ毎日続けなければならない。それを思い出すと今のこの瞬間ってなんか凄く幸せな一瞬なんじゃないかと思えてきた。時間を忘れて、バカみたいに騒いで。そんなこと本当に久しくやっていない。
「なんか、…泣いてるみたいだね」
ぼそりとレッドが零した呟きも心なしかしんみりした湿りを含んでいた。
「な、いてねーよ」
急いで返した言葉はこちらは明らかに湿っていた。最近涙腺が緩くて、だから仕方ない。
「…違うよ、」
「え、」
「影の方、」
溢れかけた涙がすっと引く。地面を見ると影はより長くなり、目の下に長い線が一本流れている。もちろんそれは俺たちの胴体なのだが、落ちそうな夕焼けのおかげで長く長く伸びた胴体は、確かに目から落下する涙の筋に見えた。
「…またやろうな、」
こうやって、バカやろうな。小さく零した言葉は、うん、と頷いた隣の言葉に拾われた。二人して、頭の上に手を乗っけたまま。
そうして、俺たちは確かめ合うように握手をして、別れた。


め、
(両目揃うまでまたお互い頑張ろうな)


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いつも緑は仕事で忙殺されてるけどこういうときにはばっさり遊んでるといいな、なんて。

2010.04.18
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