はじめて会ったときから、特別な人。 今まで出会った中でも、群を抜いて・・・・大切な人。 その人の為に、その人を守るためにおれは強くなろうと思った。 それなのに・・・・・この人は・・・。 *** 薩長同盟も無事に締結されて、今夜は祝いの宴会。 龍馬さんの大好物、鶏鍋の買出しの帰り。 「な・・・?!」 「なに驚いてるの?腕を組んだぐらいで?」 「なに破廉恥なことしてるんっスか、姉さん!!」 「ふふ、慎ちゃん真っ赤になって可愛い♪」 「!!」 ブンっと力ませに姉さんの手を振り払う。 でも、察しのいい姉さんに振り払う前に手をほどかれて、おれの腕は空を切る。 今回が初めての出来事じゃない。 この人は、なんの躊躇いもなく、突然おれの腕に絡んでみたり、横並びや 前方に立って歩く。 「いつも言ってるじゃないッスか!女子は男の後ろを歩くッス!」 出会ってから数えるほどの数日間。 その間に何度も何度も何度も・・・・数えるのも飽きるぐらい言っているのに・・・。 「はいはい♪」 「・・・・・・・」 返事だけ。 絶対に守らない。 こんなに型破りで、振り回されているのに・・・ なんで、おれはこの人に惹かれるんだろう? 否、わかっている。 本当は優しくて芯の強い女子であることを・・・。 「洋服の着心地はどう?」 突然話題を振ってきた。 「よ・・ようふく?」 「あ、異国風の隊服ってどうかな?って」 「んー、動きやすいッスけど、なんか苦しい感じもするッス」 「そのうち慣れるよ、慎ちゃんかっこいいよ!」 なんで姉さんは、おれの欲しい言葉をサラッというのだろう。 「は・・早く帰るっスよ、龍馬さんが餓死しないように」 嬉しい気持ちを悟られないように、早口と早足で誤魔化した。 **** その夜、事件は起きた。 すっかりいい気分で寝入ったおれたちの元に、新撰組が踏み込んできた。 先陣を切ってきたのは、1番組の沖田総司。 「また会いましたね」 笑顔で沖田が言う。 「俺はあんまり会いたくなかったですけどね」 時間稼ぎと見抜かれている。 そして、何故か姿を現した姉さん。 「あれ?なんで貴女がここにいるのでしょう?」 沖田が姉さんに向かって言う。 「あら、沖田にはわかってるでしょ?」 驚くでも怯えるでもなく、平然と会話する姉さん。 「さあ?」 騙し合いみたいな会話が続く、会話は穏便に進んでるみたいだけど、空気は張り詰めている。 「僕はあなたが好きだったんですけどね」 「あら奇遇ね、私も沖田が好きよ」 「じゃあ、どいてくれませんか?貴女を斬りたくないんです」 笑顔で殺伐としたことを言う沖田。 本気だ。 「ふふ、沖田のこと好きだけど・・・」 言ったん言葉を止めると、おれの傍に来て言う。 「私が心底惚れてるのは、慎ちゃんだけよ」 笑顔で姉さんに言い切られ、体温が上がるのを感じた。 「おや」 「だから、ここで沖田に斬られるわけにはいかないの」 そういうと、後ろ手に持っていたものを沖田に標準を合わせた。 「動かないでね沖田。私、龍馬さんのうように上手くないから」 それからおれに向き直ると。 「いくよ!」 そう言って、沖田の足元すれすれに銃を撃った。 その隙に掛け軸をまくり走り出した。 「おお!さすがじゃ、後はまかせとけ!」 なんの合点がいったのか、龍馬さんのご機嫌な声が聞こえた。 *** 薩摩藩邸につくと、おれたちよりも後に出たはずの龍馬さんたちがいた。 「おう、遅かったのう」 「何してたんだ」 龍馬さんと以蔵くんに言われる。 「いいこと♪」 「ね・・・姉さん?!」 龍馬さんは顔を真っ赤にし、以蔵君は固まり、武市さんは眉間に皺が寄ってた。 そして一緒にいたはずのおれが、一番動揺してた。 「あらあ、なんか勘違いしてる?」 「言い方がおかしいッス!!」 「いやっ何も勘違いしちょらん!!」 明らかに勘違いしてるッスよ・・・・龍馬さん。 「本当にいいことよ?藩邸まで道のり、新撰組を切り倒してきたんだから♪」 久々に良い汗かいちゃった♪と笑顔で報告。 竜馬さんを始め、一斉におれを見る。 おれは静かに頷く。 「ふふ、私、剣道と居合と合気道やってたのよ」 まるで「お花やってました」とでもいうように、さらりと姉さんはいう。 もう、おれの想像の斜め上をいくものだから、何も言えない・・・・。 「私、守られっぱなしな女ではいたくないんです」 そう言ってからおれを見て、言葉を続ける。 「だから、慎ちゃんとは一歩下がる女ではなくて、共に隣を歩く同志でもありたいわ」 そう言葉を続けるから・・・本当に何も言えない。 本当は優しくて、誰も傷つけたくないはずなのに・・・。 それでも、これから先の事を考えて、剣を振るった。 芯の強い女子。 だから、型破りでも振り回されても・・・絶対に嫌いになるなんてありえない、 もっと言うなら、誰にも渡したくない。 姉さんの言葉を借りるなら・・・。 「姉さんと共に歩くのはおれでありたい」 ってことっスかね。 <end> |