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幸 福



姉さん・・・改め八重が俺たちのところへ来て片手が過ぎようとしている。
初めは非常識なことばっかりあって、危なっかしくて目が離せなかった。
度胸がいいのか無鉄砲なのかわからないけど、大久保さんに立てついてみたり
新撰組の前に出てみたり・・・・。
血だらけになりながら、泣きながら俺たちを助けてくれた。

そして、激動の時代を乗り越えて、八重と晴れて夫婦になった。
夫婦になって2度目の春を迎えたーーー。

「うーーーんーーー!!」

今、部屋の中では八重が一人辛い状態になっている。

「頑張って!」

ご近所の八重と仲のいい美晴さんの声。

「ほら、もう少しじゃ!気張りなはれ!」

しわがれているが、語気の強い声は産婆ウメさん。

「んんーーー!!」

そう、今、八重はまさに出産中だった。
おかげで俺は部屋を追い出され、産婆に頼まれた通り湯を沸かしている。
沸き立つ湯を眺め立っていた。

「・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

どれぐらいたったのだろう?
半刻?一刻?それとも・・・・?
とにかく長い時間が流れているように思われた。


「ぅぎゃー!」


八重とは違う声が聞こえた、まるで尻尾を踏まれた猫のような鳴き声。
同時に襖が開きパタパタと美晴さんがでてきた。

「おめでとうございます、元気な男の子ですよ!」

汗だくな美晴さんがそう報告してくれた。
そのまま勝手で沸かした湯を桶に移すと、重そうに持ってまた部屋へ戻る。
俺はすぐに行きたかったが、産婆からの許可はまだない。

ソワソワしながら許可を待つ。
すると産婆のウメさんが顔をだした。

「もう入ってもいいぞ、良く頑張った、声をかけてやるといい」

中に入るとぐったりとしながらも、笑顔の八重がいた。

「・・・慎太さん・・・」
「八重おつかれさま」
「ありがとう、慎太さんの顔見たら疲れが飛んじゃった」

なんて可愛いことをいうから、俺は傍目も気にせず八重に口づける。
少し驚いた表情して、それから嬉しそうに笑った。

「ほれ、初心湯からあがったよ、抱いておやり」

産婆のウメさんが産着にサラシを巻いた赤ん坊を手渡す。

「お・・や、柔らかい・・」

赤ん坊は小さくてふにゃふにゃと柔らかく、どこか懐かしい匂いがした。

「ふふ、男の子ですって」
「うん、嬉しいな」

しばらくして八重は眠りについた。
目が覚めたのは夕餉近くだった。
夕餉の準備は美晴さんがしていってくれていたので、
すぐに食べることが出来た。

食事をしてると、不意に八重が笑う。

「どうかした?」
「私、つくづく女で良かったなあって」
「・・・・・?」
「以前は男だったらよかったのにって。
そしたら、慎太さんと共に戦えるって思ったんです」


意外な告白だった。
八重がそんなことを考え思っていたなんて、俺は思いつきもしなかった。

「でも男だったら慎太さんの子供は産めない」
「確かに」
「だから、女で良かったなあって。今、私すごく幸せです!」

顔を少し赤らめながらいう、可愛らしい妻。
脇ではすやすや眠る赤子。
俺はとても幸せ者だ。

「おれもです」

向かい合い二人で赤子を起こさぬように、そっと笑いあう。
こんな平和で幸せな時が来るなんて、あの頃は思いもしなかった。

だから・・・。

ずっと俺のそばにいてください。
笑っていて下さい。
俺が命をかけても、ふたりをを守るから。
俺のすべてをかけて
あなたと、そしておれたちの子を愛するから・・・・。

<end>


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