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パンドラ 13〜娘視点〜



血の惨劇から目覚めると、そこは懐かしの薩摩藩邸だった。
手紙を・・・救援に駆けつけてくれた大久保さんの姿を見てから
記憶が途切れているところを見ると、私は気を失ったみたいだ。

「・・・・・・・」

慣れ親しんだ部屋のはずなのに、違和感を感じる。
上手く思考が回らないけど・・・・なにか・・・。

「・・・目が覚めたか?」
「・・・大久保さん・・?」

隣室から大久保さんがやってきた、夜着に羽織という姿。
当りの暗さから夜中なのかもしれない。

大久保さんから近況報告を受けながら、違和感の正体に気がついた。

・・・・・匂いが違う・・・・・・

大久保さんの愛香は伽羅。
でも、大久保さんから漂ってくるのは伽羅と羅国の練香だ。
そういえば、この香り・・・・どこかで。

「八重、何を隠している?」

さすが勘の鋭い大久保さん。
考え事しながら話してることが、すっかりバレてた。

「隠し事などありませ・・・!」

言い訳を考えていたら、不意に抱きしめられた。
大久保さんの体温で暖められた香りを強く感じた瞬間、一人の女性が
頭に浮かんだ。

大久保さんを『あなた』と呼んだ、あの女性・・・。
そうだ、あの人は羅国の香りをさせていた・・・・。
ドタバタしてて忘れていたけど、大久保さんには奥様がいたんだ。
忘れていた、否、忘れたかった現実を、この香が思い出させた。

部屋の・・・特に布団からも練香を感じる。
大久保さんの伽羅と女性の羅国・・・その意味することが
わからなような、子供じゃない。

今は姿が見えないところを見ると、どこか違う部屋に居るのかもしれない。
見てないとはいえ、私が大久保さんの傍に居るのは不快に違いない。
一刻も早く傍を離れるべきだ。

「大久保さん、明日の朝には移りますから、今夜はこのままお引き取りください」
「・・・・・・・」

大久保さんは納得はしてないものの、ひとまず引いてくれた。
私はホッと胸をなでおろす。
このまま傍に居ることも、小姓に戻ることもできない。
自分で決めたこととはいえ、思いのほかダメージが大きい・・・。

「現実は容赦ないなあ・・・」

思わずこぼれる言葉と涙。
今夜だけ・・・泣くのは今夜限りにして、明日にはいつもの私に戻ろう。
まだ、龍馬さんや慎ちゃんが重体なのだ、泣いてる暇はない。



<end>

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