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パンドラ 12



大久保さんとの衝撃的な再会。
でも、これが現実で当たり前なのかもしれない。
大久保さんは薩摩だけでなく日本の重鎮として活躍する。
それを支える人が出来るのは、普通に考えればわかること。


「・・・!八重!」

ふと、以蔵に名前を呼ばれて意識が戻る。
考え事しながら歩くと周りの音も風景も目に入らない、
悪い癖がまた出ていたようだ。

「あ・・・なに、以蔵?」

何事もないように取り繕ったって、以蔵にはお見通しだろう。

「・・・こっちから帰るぞ」
「でも、そっちだと近江屋まで遠回りじゃない?」
「・・・・」

返答なし。
無言でズンズン歩いていく。
以蔵って意外と強引で、無言で人を引っ張っていくんだよね。
でも、無駄なことはしないから何かあるのかもしれない。

私が変な勘ぐりをしながら付いてくと、そこは清閑な竹林に続く道だった。

「わあ、こんな道、良く知ってたね?」
「・・・武市先生がよく通られる道だ」

そう言って口をつぐみ、少し顔を背ける。
私が気持ちを切り替える為に、寄り道してくれた。
以蔵は口はぶっきらぼうだし、言葉も悪いけど・・・・。
本当は優しい奴だ。

「ありがとう以蔵、気分転換になったよ」
「・・・早足で戻るぞ、武市先生がお待ちだからな」

林道を早足で歩くと、少し先に真新しい神社が目についた。

ドクンっと大きく心臓が脈打つ。

私・・・この神社を知っている。

そう全ての始まりの場所。

「・・・・・っあ」
「なんだ?どうした?」

口の中がカラカラになって、呼吸が上手く出来ず、
言葉が出てこない。

今、このタイミングで見つかるの?
これは何かの啓示?

「・・・ここ」
「?」
「見つけ・・た。私の・・・帰り道」
「・・・?!」

以蔵の目が見開かれて、私を見ている。

不意に体が揺れる。

「・・・い・・以蔵?!」

振り返ると以蔵が私の腕を掴んでいた。
怒ったような焦ったような、複雑は表情で。

私は無意識に神社へ向かっていたようだ。

「勝手に行くな、まずは武市先生や龍馬たちに報告が先だろう?」

至極当たり前のことを言われ、我に返る。
そうだ、見つけたからといって勝手に行っていいものではない。
それぐらい私は・・・この世界にこの人たちと深くかかわりあってきた。

「そうよね、ありがとう以蔵」

掴まれた腕に手を重ねる。

「あ、いや、わかればいいんだ、行くぞ!」

神社を後にして近江屋へ足早に向かった。

   *****

近江屋付近の橋で武市さんとすれ違った。

「武市さん、どちらへ?」
「良かった、なかなか戻らないので心配していました」
「すみません」

以蔵が軽く頭を下げる。

「・・・僕は土佐藩邸に様子見してきます」
「土佐藩邸?何かあったのですか?」
「実は伊藤甲子太郎が先程まで来てまして・・・」

伊藤さんは元は新撰組だったのだけど、今は抜けて新政府のほうに居る。
その情報筋で、新撰組が龍馬さんを狙っているという情報があり、
土佐藩邸に擁護を伺いに行くとのことだった。

「とりあえず、今は近江屋へ戻っててください」

橋で武市さんと別れて近江屋の近くまで来ると、走り去る浪人たちと
すれ違った。
微かに血の匂いをさせながら・・・・。

以蔵と顔を見合わせると、大急ぎで近江屋の2階へ駆け上がる。

「・・・龍馬!!慎太!!」
「龍馬さん!慎ちゃん!」

そこには血まみれの部屋で意識のない、龍馬さんと慎ちゃんがいた。

「くっ!さっきの奴等か!!」
「以蔵、怒ってても仕方ない、応急処置するよ!」

荷物から真新しいサラシ、止血用油と油紙を取り出す。
止血用油は止血効果のある、桑の樹液とガマの油を混ぜて作った
私のオリジナル。

「以蔵!御勝手から焼酎を貰ってきて!
それと店の丁稚を一人よこして!」


以蔵が下に降りると同時に、私は紙に自前のペンで
大久保さんへ救援の手紙を書いた。

ほどなく店の丁稚が上がってくる。
目の前の大惨事に顔色が青を通り越して白い。

「いい?今から大急ぎで薩摩藩邸に向かって、
この手紙を大久保さんに直接手渡して!」

「薩摩藩邸の大久保さまですか?」
「そうよ、『八重の使いで来た』と言えば、多分、
表座敷の矢部さんが取り次いでくれるから!」

「はい!」

丁稚にこづかいを渡し、使いに出す。
すぐに重症の龍馬さんに止血を施す。
傷が思いのほか深い、袈裟がけに切られている。
首の動脈を傷つけなかったのは幸いだが、出血量が多い・・・・。

「・・・ね・・ねえ・・・さん?」

後方から慎ちゃんの微かな声が聞こえた。

「慎ちゃん!意識あるのね?!」
「・・・ね・・ねえさんが・・ぶ・・無事でよか・・・たス」

今にも事切れそうな声で、無理して笑顔を作ろうとする。
こんなときでも、気遣う慎ちゃんってホントすごい。

「慎ちゃんしゃべらないで!今、応急処置するから!」
ほどなく両手いっぱいに焼酎瓶を抱えた以蔵が戻る。

「以蔵は慎ちゃんの傷と血を洗い流して!」

慎ちゃんは「うっ!!」とうめきながらも、大人しく処置を受けている。
龍馬さんは焼酎をかけてもうめき声すら上がらない、意識が飛んでいる。
止血用油がどこまで通用するかわからないけど、今はこれに頼るしかない。

   ****

ドタドタという騒がしい足音が聞こえたのは、
慎ちゃんの応急処置が終わろうとしている頃だった。
骨が折れるんじゃないかと思うほど、きつくサラシをぐるぐる巻きにされた
二人は担架に乗せられた。

一息ついて振り返ると、そこにはキビキビと指示を出す人の姿が。

「・・・大久保さん・・」

私はその姿に安堵し、意識を手放した・・・・。


<end>
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