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企 て



最近、姉さんの様子がおかしい。
言動がおか・・・いや、面白いのは常日頃のことだけど。
それに輪をかけて怪しすぎる。

つい3日ほど前も。
姉さんお気に入りの甘味処に誘ったのに。

「姉さん、一緒に水屋に行かないッスか?」
「水屋!?うーん!!・・行きたいけど、今日はいいや!ゴメンネ」

あっさり(?)断られる。
1回ぐらいなら、別に何とも思わないけど、誘うたびに断られる。
かと思えば。

「武市さん、ちょっと付き合ってください」

と。
俺の誘いをわざわざ断って、武市さんを誘う。
そりゃ、俺より武市さんのほうが頼りになるのかもしれないけど・・・。
好きな女(ひと)に頼られなかったり、断られ続けるのは
さすがに面白くないし、正直キツイ。

更に夜はお登勢さんの部屋で寝ているらしく、
2階の部屋には帰ってこない。

「お登勢さーん、今夜も行っていいですか?」
「いいよ、待ってるからね」
「ありがとうございます」

御勝手場からご機嫌にやってくる、姉さんを角で待ち伏せた。

「・・・姉さん」
「わあ!?し、慎ちゃん?ゴメン私よそ見してたみたい?」
「・・・」

ものすごい慌てぶり、更に何かを隠すかのような早口。
明らかに何か隠してる。

「・・・なに隠してるっスか?」
「え!?か、かか隠しごとなんて、何もないよ?」
「・・・」

目が泳いで視線を合わせない、明らかに動揺しているのに、
何事もなかったように振舞う。
隠しごとが出来る性格じゃないって、未だにわかってない。

「・・・」

その場を立ち去ろうとする、姉さんの腕を無言のまま掴む。
驚いた様子で振り返る。

「えっと?ごめんね慎ちゃん?ちょっと用事あるから」

手を離して?という言葉とは反対に掴んだ手に力を入れる。

「慎ちゃん?」

きっとなんで俺が離さないのか、姉さんはわかってない。
俺がどんな思いでいるかってことも、同じく気付いていない。

「なんで、おれのこと避けるんスか?」

意図したわけじゃないけど、いつもより低い静かな声で言う。

「避ける?ええと、そんなつもりないけど?」
「そんな嘘通じないっスよ?」
「あ・・・えと、本当に・・・」

苦笑いで言葉を詰まらせる。

「今だって誤魔化そうとしてるっス!」
「・・・慎ちゃん・・・」
「おれ、なんかしたっスか?」

困らせたいわけでも、怖がらせたいわけでもない。
ただ、姉さんの言動の真意を知りたい。

「・・・ごめん、慎ちゃん、慎ちゃんは何も悪くないの」

少しうつむいて、沈んだ声で姉さんが言う。
それから、顔を上げて

「でも、まだ言えないの、ゴメンネ」

見上げられた目が潤んでいて、俺はそれ以上何も言えなくなった。
潤んでいるのに、絶対に言わないという強い意志が伝わったから。

「・・・・・」

そっと手を離すと姉さんは走り去るように行ってしまった。

   *****

あの日から5日。
相変わらず挙動不審な姉さんだけど、俺は何も言わず黙っていた。
きっと問い詰めても、何しても姉さんは言わない。
そういう芯の強い女子だから・・・。
だから、俺は・・・・好きになったのだから。

「あー!!」

部屋に籠っていてもモヤモヤするから、素振りでもしようと襖をあけると
ちょうど姉さんと鉢合わせした。

「あ、今ちょうど慎ちゃん呼びに来たところなの」

ふわっと花のような笑顔で言われて、先ほどまでのモヤモヤが晴れる。

「お、おれっスか?」

思わず姉さんの笑顔に顔が緩む。

「あのね、目隠しして?」
「目隠し?!」

驚く間もなく、手際良く手拭いで目隠しをされる。

「慎ちゃん、こっちよ」

そして、姉さんに手をひかれて、ゆっくりとどこかに連れて行かれる。
階段を降りる気配はないから、きっと同じ階の違う部屋に
案内されているのだろう。

「どこに行くっスか?」
「ないしょ!もうすぐ着くから♪」

明らかにご機嫌な姉さんに、言われる、されるがままに着いていく。

「到着〜さあ、どうぞ!」

襖の開く音とともに目隠しを外される。

「え?え?」

少しぼやける視界には、龍馬さんたちや高杉さん桂さん・・・
そして、何故か大久保さん。

「主役、到着です!」
「昼食会を兼ねたお誕生日会です!」

とても楽しそうに姉さんが言う。

「おたんじょうび・・かい?」
「中岡、おまんの生まれを祝う会じゃ」

龍馬さんが満面の笑みでいう。

「中岡、八重さんはお前の為にいろいろ準備してくれたんだ」

武市さんが少々ムスッとしながら言う。

「おれの為にっスか?」

俺の声に反応して姉さんの声が返ってきた。

「うん、私だけじゃなくて武市さんや桂さん、大久保さんにまで助けていただいたの」

だから、みんなで準備したのよ、という。

「慎ちゃんの席は・・・ここよ」

案内された席に座ると、他のみんなの膳と違って俺の膳には、
細く短い蝋燭が刺さった、黄色くて高さのある丸いモノ、が置かれていた。

「これは・・・?」
「お祝いの時に食べる『バースデーケーキ』っていうの。
願い事を言ってから、蝋燭の火を消すのよ」


そういうと、以蔵くんが蝋燭に火を灯す。

「おれの・・願い・・」
「慎ちゃんの願いはなに?」
「おれの願いは・・(八重と一緒に)笑顔で暮らせる日本にすることです!」

そして、勢いよく蝋燭の火を消す。

「慎ちゃん、お誕生日おめでとう!」

姉さんの祝いをはじめとして、みんなが祝いの言葉をくれた。

「みなさん、ありがとうございます」

「慎ちゃん、これ私から」

そっと色つき紙に包まれたものを渡される。
開くと縮緬(ちりめん)で作られた紙入れ(*)だった。

「八重さんが一人で作られはったんよ」

お登勢さんが言う。

「良かったら使ってね!」
「姉さん!ありがとうございます、大切に使うっス!」

それから『ばぁすでぃけえき』なるものを、姉さんが切り分けた。
見た目にはわからなかったけど、それは薄切りの「かすてぃら」を
4段ぐらいに重ねてあって、間には赤いものが挟んであった。

「姉さん、これはなんスか?」
「これはイチゴのジャムというものよ、イチゴと砂糖を混ぜて煮詰めて作るの」
「美味そうっス!ありがとうございます!」
「召し上がれ」

数日前の奇怪な姉さんの行動は、全て俺のためだった。
紙入れや「いちごのじゃむ」を作るのに、お登勢さんのところに
泊りこんだり、他のけえきの材料を調達するのだって大変だったはず。

切り分けられた「ばぁすでぃけえき」はとても甘く優しい味がした。

「姉さん、美味しいっス!!」
「ホント?良かった!」

笑顔の姉さん。
紙入れの贈物も嬉しいけど、その笑顔が何より嬉しい。
蝋燭の火を消す時は言えなかったけど。
本当の願いは

『おれの傍にずっといて欲しい』

<end>
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1日遅れですが、慎ちゃんB.Dおめでとー♪

(*)紙入れ・・・携帯用の札入れ、現代の長財布よりも薄いもの。



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