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パンドラ 7


八重の凛とした声がことのほか大きく聞こえた。

「私は未来から来ました」

「未来だと?」

ざあっと急に冷たい風が吹き抜ける。
冗談のような言葉だが、あ奴の瞳は至極真面目な真剣な眼差し。

「嘘か冗談に聞こえるかもしれませんが・・・」

「・・・・」

「でも、確かに私は未来から来ました」

自分をに言い聞かせるかのように、言葉を繰り返す。

「どういうことだ?」

「どのように説明したら納得していただけるか・・・」

八重には珍しく、言い淀み困惑をしているように見受けられる。
きっと、こ奴自体も信じがたい出来事なのかもしれない。

それから記憶を辿るように、話を始めた。
今現時点に至るまでの経緯を。

「なるほどな、それで合点がいく」

「合点・・・ですか?」

不思議そうな顔をしながら、聞き返す。
そう、私は今まで感じていた違和感を解消できた。

この時代に合わない知識、言動、持ち物の数々・・・それら全て。
八重にとって、今この時代は『過去の出来事』として
知っている・・・ということだ。

「・・・未来に時を超える技術があるのではないのだな?」

「少なくとも私が知りえる限り、時を超える技術はありません」

そうなると、何故、八重はこの時代にやってきたのか?
この先に起こるであろう出来事、それを知る八重の存在は非常に危険だ。
本能的に理解して、今まで素姓を明かすことをしなかったのであろう。

そう言った意味では、非常に冷静な女といえる。
自分の立場を良く分かっていたということであろう。

「そして、お前は元の時代へ帰りたいのだな?」

八重が生きていた時代は、
いつ、命を落とすとも知れない今よりも、
ずっと平和で安全で幸せな時代。
答えは聞かずとも知れている。

「いいえ」

意外な答えた返ってきた。

「ここに来た当時は『早く帰りたい』と願っていました」

すぅっと視線をずらし川面を眺める。
八重の瞳は川の流れを映しながら、
思いは未来へ馳せているように見える。

「でも・・」

言ったん言葉を切ってから、躊躇いがちに口を開く。

「ここで・・・生きたい、そう思っているのです」

きゅっと口を結び、私のほうへ向き直る。
迷いのない強い意志の現れ。
何を言っても変える気はなさそうだが、
一応、今後の予定を伝える。

「このあと、伏見藩邸に移ってから薩摩へ移動する。
そうなると、未来へ帰る手がかりも失うことになるが?」


「私はもう、決めたんです」

決意表明をするように力強く言う。

平和な時代を捨ててまで、ここに居たいという。
何がそこまで八重を引き止めるのだろうか?

「まあ、このまま居ても手掛かりはないでしょうし」

八重は少し口元を緩めて言う。

「ならば、もう何も言うまい。船宿に戻るぞ」

「はい」

二人、来た道を戻る。
船宿を出た時は、まだ高かった陽が沈みかけていた。


<end>
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