「・・・あれ?・・・」 厠へたった時のこと。 姉さんの部屋に明かりが灯っているのが見えた。 おれは驚いて足音を忍ばせながら部屋に近づく。 「姉さん、もう丑の刻っスよ?まだ寝ないんスか?」 おれの声に驚いたような声が返ってきた。 「慎ちゃん?」 「そうっス」 返事をすると、すーっと障子が開いて姉さんが手招きをした。 「ちょっと寝付けなくて・・・」 姉さんが寺田屋に来て7日目・・・まだ、姉さんの手掛かりとなる寺は見つからない。 いつも元気に気丈に振舞っているけど、やっぱり不安なのだろう。 布団脇に向かい合って座ると、姉さんは言葉を続けた。 「昼間はみんなが気を使ってくれたり、忙しかったりしてあまり考えてないけど」 枕もとの荷物に目を向けて言葉を続ける。 「夜になると考えちゃうのよね、この先のこと・・・」 憂いを含んだ表情に胸が締め付けられる。 「元の世界に戻りたいッスか?」 「・・・うん」 「そうっスよね」 「・・って、前までは思っていたの」 「?」 「今はね、ここに残ってみんなといたいって気持ちもあるの」 予想外の言葉に言葉に詰まる。 「不思議なんだけどね、自分がいた世界に帰りたくないわけじゃないのよ?」 さっきまでの憂い顔がいつの間にか笑顔になって。 「ただ、みんなとこれからも一緒に居たいって思ってるのも事実なの」 足手まといなのはわかってるけどね、と付け加える。 「そんなことないっスよ!姉さんが寺田屋に来てくれて嬉しいっス!」 「ありがと、慎ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」 そういうと、姉さんが小さく欠伸を噛み殺す。 「ああ、もう随分お邪魔したッスね、おれも寝ます」 「引き止めてごめんね、慎ちゃん」 少しすまなさそうな表情でいう。 「おやすみなさいっス!また明日、朝餉のころに呼びにくるっス!!」 「ありがとう、おやすみなさい、慎ちゃん」 音を立てずに障子を閉めて、自室へ戻る。 姉さんの言葉を思い出す。 『みんなとこれからも一緒に居たいって思ってる』 この時、チクっと胸が痛んだ。 みんなと居たいというのは、間違いなく姉さんの本心。 でも出来るなら・・・『みんな』ではなく『おれ』と居たいと思ってほしい。 あの瞬間にそう思ってしまった、そして気が付いてしまった。 意外と独占欲が強かったんだ・・・って。 今までは気がつかなかったこの気持ち。 ・・・違う、今までは気がつかない振りをしていたんだ。 でも自覚してしまったら、もう後戻りはできない。 「・・・ヤバイ・・・」 恐ろしいことに、自覚した途端、この思いは病のように体中を蝕んでいく・・・。 いつか、この世界からいなくなるかもしれない人なのに・・・。 でも、この思いを止める術をおれは知らない。 止められない思いは、ただ突き進むだけ・・・・― <end> |