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パンドラ 6



薩摩藩の船宿に着いた時、龍馬さんは気を失っていた。
そして、長州藩邸に知らせに行っていた慎ちゃんは
すぐに船宿にやってきたけど、
寺田屋に残って時間稼ぎをしていた以蔵は、
合流するのに2日掛かった。

みんな傷だらけで、以蔵なんて火傷も負っていたけど、
それでも、一番の重症は龍馬さんだった。
その龍馬さんは傷による発熱で、ほぼ寝たきり状態だった。

大久保さんは、船宿についてすぐに藩邸に
トンボ帰りだった。
次に現れたのは寺田屋のみんなが揃って、龍馬さんの熱が
下がって落ち着いた10日後。

「これから船で伏見の藩邸に向かう」

やってきて早々、荷造りをするように言う。

「伏見の藩邸?」
「いつまでも船宿に、いるわけにもいかないであろう」

まあ、確かにそうなんだけど・・・。
ここではお匙の方・・・お医者様に来ていただくのも不便だ。
荷物という荷物はないけど、身の回り用品をまとめる。

その間にも、武市さん龍馬さん慎ちゃんと大久保さんは、
今後の予定に着いて話し合っていた。

以蔵は・・・というと、川の見える格子窓の脇に立ち、
外の様子を伺っていた。
薩摩藩ご用達の船宿とはいえ、いつ新撰組に見つかるとも
限らないので、警戒は欠かせない。

話合いがすんだのか、大久保さんが私に声をかけてきた。

「八重、少し付き合え」
「はい?」

作業の手を止めて、武市さんに断って船宿をでる。
しばらく無言で川沿いを歩く、1月(現歴3月)にしては
緩やかな風、とても天気がいい。
まさか散歩とか?

「これから忙しくなる、その前に確認しておきたいことがある」

いつになく、重い口調に思わず身が引き締まる。

「はい」

一呼吸おいてから返事をする。

「お前は何者だ?」

そう尋ねる大久保さんの目は、鋭利な刃のように光って見えた。
スゥっと首元に刀を向けられた気がした。
もう、黙秘は許されない。
小手先の誤魔化しなんて言ったら、即刻斬られる、
そんな雰囲気を纏っている。

年甲斐もなく、足元が震えるような気がした。
別に嘘つくつもりはないけど、はたして
どこまで信じて貰えるだろうか?

体験した私でさえ、受け入れきれていない、
戯言のような出来事を。

目を閉じて、深く深く呼吸をして。
真っ直ぐ大久保さんの目をみる。
そして。

「私は未来から来ました」

冷たい冬の風の中で、大久保さんの息を飲む音が
聞こえた気がした。


<end>
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