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パンドラ 4



恋文騒ぎから1か月後・・・。
今日、無事に薩長同盟が締結された。
大久保付き小姓の私も同席していた。

大久保さんは「ようやく、一歩前進だ・・・」とつぶやいていた。
疲労困ぱいぶりは相当で、特にここ10日ばかりは睡眠も削って、
仕事に奔走していた。

「無事、同盟が結ばれて良かったですね」

薩摩藩邸に戻り、夕餉もそこそこにお酒になった大久保さん。
お疲れ様でした、と酒を向ける。

「・・・まだ、問題は山積みだがな」

そう言って盃に口をつける。

犬猿の仲だった薩長の同盟は障害だらけだった。
それを慎ちゃんが気長に大久保・西郷さんと
長州の高杉さんのところへ何度も何度も足繁く通って、
話し合いをした賜物だ。

薩長同盟は中岡慎太郎なくして、結ばれることはなかっただろう。

「これからが・・・本番ですね?」
「・・・その為に下準備をしてきたんだ」

久しぶりに大久保さんと話をしている気がする。
仕事の話は良くしていたけど、こんな風にお酌しながらの
会話はいつ以来だろう?

ゆったりとした時間に、心が満たされていく感じがした。
只の上司だと思っていた大久保さんに、
別感情を抱いていたこと・・・。

いつから・・・?

出会いは最悪だった。
高慢な態度と口調に、初対面にも関わらず挑戦的な態度を取った。
何事に関しても厳しく的確で・・・。
でも、きちんと成果を上げれば、認めてくれる。
今まで出会ったことのない上司だった。

いつしか上司としてでなく、一人の男として惹かれていた。
でも、それは一歩通行だ。
あの恋文事件で、私は自覚した。

『このお文の中に、大久保さんとの仲を疑われてるものもありましたよ?』
『なに?』

大久保さんの反応を見たくて、話を振った。
返ってきたのは・・・・とても迷惑そうな声。
だから・・・

『今の私と大久保さんでは衆道ですかね?』

茶化すように、私は返事をするしかなかった。
本当は、私と大久保さんの仲を疑う文なんてなかった。
ただ、反応を見てみたかった。
結果・・・自覚した途端に見事失恋。
まあ、大久保さんは私を恋愛対象というよりは
未確認危険人物と認識してるみたいだし。

「・・・おい?」
「えっ?」

声を掛けられ、意識が明後日の方向に飛んでたことに
気がつく。
盃を持っていたはずの手が、そっと額に触れた。

「・・・熱はないみたいだが、具合が悪いか?」

心配そうに大久保さんが、顔を覗き込む。

「いいえ、少し考え事を」

そっと大久保さんの手を避けて、顔を背けて答える。
いきなりその表情は反則過ぎる。

大久保さんが何か言おうと口を開いた時、
バタバタと騒がしい足音がした。
そして、スパーンといい音を立てて襖が開くと、そこには
傷だらけの武市さんが立っていた・・・・。




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