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女 子 会♪



「・・・じょしかい?」

その妙案は、桜が満開な春の出来事だった。

「はい、字で書くと”女子会”です」
小姓姿の八重が、茶を持ってきたついでのように、話し始める。
その”女子会”とやらは、女だけの集いらしく、男子禁制。
何の集まりかと聞けば、得意顔をして。

「殿方の宴会みたいなものでしょうか?」

とのたまった。

「何処で行うつもりだ?」
「本当はどこかの小料理屋とかに行きたいのですが・・・・」

チラっと私を伺い見るような仕草をしたかと思うと、

「・・・そうもいかないので、藩邸のお庭をお借りしたいです」

にっこり笑って、でもその瞳は反論を許さない、
妥協しない強い意志が現れていた。

「・・・・いつだ?」
「許可いただければ、明日にでも」

どうせ前もって女中等には話をしていたのだろう。
わざとらしく許可を求める、許可しなくても強行したであろうが、
それでは巻き込まれる女中が不幸なので、許可せざるおえない。

・・・八重に、上手い具合に扱われてる気がするのは、
考え過ぎだろうか??

「余り周りに迷惑にならないようにな」
「心得ました、ありがとうございます」

頭を下げ、礼を言うと勝手場に向かおうと、立ちあがって。
何かを思い出したかのように、口を開く。

「あ、明日の夕餉は仕出し屋さんにお願いしますね」
「仕出し屋?」
「多分、夕餉の支度、出来ないと思いますから」
「な?!」
「宴会にお酒は付き物でしょう?」

ニィっと悪巧みを隠そうとしない顔。

「昼から飲むのか?」

憮然として聞く、受け流すような笑顔で「はい」と答える。

「夜の庭では暗いですしね?」

夜、出掛けていいなら別ですが・・・と付け加える。
そんなことを、許すわけもないことを承知の上で。

「・・・仕出し屋の手配はまかせる」
「大久保さんのお気に入りの『舟屋』さんにお願いしてあります」

すべて手配済み・・・か。
全く食えない奴だ。
深い溜息とともに、文机の書簡を手に取った。

    *****

大久保さんから女子会の許可をもらえた。
もう少し、いろいろ話を聞かれたり、制限されると思って
構えていただけに、肩すかしをくらった気分だ。

「大久保さんから許可を得ました!
さあ、御花見をしましょう!」


女中部屋で言うと、驚きの表情と歓喜の声が上がった。
その後の準備は早かった。

翌日ー

昼間からの酒宴、食事から甘味まで勢ぞろい!
ウキウキとしながら、藩邸の裏庭にある立派な桜の下で
女子会を開始した。

「ねえ、今までこういう集まりってなかったの?」

素朴な疑問から聞いてみる。

「有りませんよ、私たちは藩邸にお仕えしてる者ですから」

片手を顔を前でパタパタと横に振って答える、女中頭のお鶴さん。
年のころは40位かな?
普段、きびきびと若い女中さんたちを指導してる。

「そうなの?飲みに行ったりは?」

絶対ないと思っていながらも、聞いてみる。

「そんな!外で御酒を女子だけで飲むなんて!!」

ハシタナイという言い草に、この時代の状況を思い知る。
まさに男尊女卑・・・・大久保さんが、というわけではないが、
何故か悲しい気分になる。

大奥とかでは酒宴があったはずだけど、一般庶民が外で女だけで
お酒を飲むのは憚れるらしい。
もう少し時代が進めば、あり得る話なのだろうけど。

「でも、私たちはここで、この薩摩藩邸で働けて幸せですよ?」

そういったのは、女中の中でも若い小梅と呼ばれる10代の子だった。

「そうなの?」
「はい、ここは他に比べ、私たちにもお休みを頂けたり、
お正月や盆には交代で郷に帰る時間をくれるんですよ」


にっこりと嬉しそうに言う。
彼女ぐらいの年の子って、親恋しいだろうな・・・・。

「そうなんだ、ご両親、喜んでくれるでしょ?」
「はい!私が立派に奉公してるので安心してくれています」
「恋仲な人は?」

年頃の話題を振ってみる。
お鶴さんには旦那さまがいて、子供もいる。
だから、結婚してても女中は出来るみたいだけど・・・。

「・・・・ええと、その・・・・」

顔を真っ赤にしながら、歯切れ悪く話す。
これは、居るか、もしくは片思い?

「小梅も最近、文を交わす殿方がいるんですよ!」

この発言は御勝手中頭のお千代さん。
20後半ぐらいの噂好きな女中だ。

「おや?」

冷やかすように見ると、小梅は真っ赤で今にも倒れそうだった。
それでも。

「はい、最近、出来たんです・・・素敵な人なんです」

と、照れながら言う。
可愛らしいその姿は、なんとも言えず、衝動的に抱きしめていた。

「そうか、幸せになれるといいな!」
「あ、ありがとうございます、あの・・・八重さま?」

抱かれた腕の中で、遠慮がちに小梅が聞く。

「なに?」
「あの、八重さまはその姿でよろしいのですか?」

そう、今日は女子会だというのに私は小姓姿。
一応、桃色の着物に藍色の袴で、少しは女っぽくしてみたが・・・。

「いつ、大久保さんに呼び出されるかわからないからね?」

冗談っぽく言う。

「・・八重さまは・・・大久保様をどう想いですか?」
「うーん、捻くれてるけど、まあ、上司としてはいいんじゃない?」

率直な感想。
今までいた会社の中では、割といい上司だと思う。
人使いは荒いけど、余計なこと言わないし、用件は簡潔だし、
一見、無謀そうに見えても、決して間違ってなかったり。
感情に流されるタイプにも見えない。

「・・・そうですか」

どこか、私の回答には不満げだったけど、それ以上何も
言わなかったので、私も敢て追求せず。
代わりに御勝手中頭のお千代さんが言葉を続けた。

「八重様と大久保様は恋仲なのではないのですか?」
「はあっ?!」

思わず手にしてた盃を落としそうになる。
何処を見たらそんな話が出るんだろう?

「いえ、大久保様が特定の女子を御傍に置くことがなかったので・・・」

「そうなの?」

大久保さん、結構女の扱いが上手いように思えたんだけど・・・?

「はい、今までお見合いのお話もいくつかあったらしいのですが・・・」

お酒も入って女中たちの口が少しずつ、滑らかになる。

「へぇ、見合いねえ」

新たに注がれたお酒を口に運び、話の続きを促す。
まあ、あの容姿と仕事の出来具合からほっとかないだろうな。
有望株に手をつけときたい、役人はいるだろう。

「でも、全部断っていらっしゃるみたいで・・・」
「女に興味ないとか?」
「えー!衆道ですか?!」
「どんな人がいいのかしら?」
「やっぱり若衆とか?!」
「意外と歌舞伎者とか?」

キャーと声が上がり話が盛り上がる、
この手の話は時代を超えて女性は好きだよね。
衆道・・・・ゲイかホモってことよね?
うーん・・・大久保さん、その気はなさそうだし、見合い断るのも
多分、仕事を優先させているだけような気がする。

しかし、大久保さんもまさかこんなこと言われてるなんて
思いもしないだろうな。
とはいえ、キッカケ作ったの私だし・・・。

「男にも興味ないと思う、仕事人間みたいだし」

一応フォローしとかないとね、あとで邸内で変な噂が
出回ってもマズイし・・・。

「あ、その感じはわかります」

賛同してくれたのは小梅。

「いつも遅くまでお仕事されて、
お部屋の明かりが遅くまで点いてると言いますし」

「そうなんだよねぇ・・・って小梅ちゃん良く知ってるね?」
「あ・・・その・・」

しまった、と言わんばかりの表情。
これは、大久保さんの周りに小梅の彼がいるな?

「何処からの情報かな〜?」

お酒が入ったせいか、イジメモードのスイッチ入った。
可愛い子って、ついつい苛めたくなる。

他の女中たちの視線に耐えきれず、顔を真っ赤にして
俯きながら、

「・・・や、矢部さまが・・心配してらっしゃって」
「矢部さん?!」

これまた意外な人物の名前が。
普段、仕事してるときにはそんな素振り見せもしないのに。
やるなぁ矢部さん、隅に置けないな。

「あ、あの、このことは・・・!」

慌てたように言う、小梅を再び抱き寄せて

「ここでの話は他言無用!みんなもわかってるわね?」

女中みんなが笑顔で頷く。
ホッとした表情の小梅、本当に可愛い。

すると、お千代さんが。

「八重さま、お小姓姿のまま小梅を抱き寄せてると、恋仲のように見えますよ?」

と冷やかすように言う。

「ふふ、私、小梅みたいな子、好きよ?」

とクイっと小梅の顎を持って、顔を上げさせながら言えば。

「八重さま〜〜!?!?」

混乱に陥る小梅。
冗談だよ、と軽く頭を撫でると、真っ赤になって抗議する。
周りからどっと爆笑が起きる。
ああ、やっぱり女子会っていいな。
時代は違っても、同性でしか出来ないことってあるなあ、なんて
感慨深く思ってみたり・・・・。

女子会は月がぽっかり浮かぶころまで、
楽しく続いた。

<end>

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